映画『赤と白とロイヤルブルー』から学ぶアメリカとイギリスの文化・風習
※2023/09/05 一部修正
Amazon Primeで配信中の『赤と白とロイヤルブルー』は、アメリカ大統領の息子とイギリス王室の王子との恋愛から、国と個人と立場と未来を描いている。
その中で当然アメリカとイギリスの文化や風習に関する話題が登場し、彼ら自身その違いに触れたりもする。
日本人の私には馴染みのないものもあったため、今回は『赤と白とロイヤルブルー』をきっかけに学んだアメリカとイギリスの文化風習をまとめて、皆様にも共有しようと思う。
映画自体の感想は別の記事としてまとめた。
アメリカの文化や風習
大統領次席補佐官🆕
ザハラの役職名だ。
(映画で明示されてたかちょっと確認しきれず。書籍では明記されている)
まず大統領補佐官とは、大統領が直接指名することで選ばれる。
主に情報収集や助言などで大統領をサポートする。
首席補佐官のもとに数名の次席補佐官がいる体制が多いが、必ずしも首席補佐官を置かなければならないというものでもない。
現にケネディ大統領は在任中に首席補佐官を置かなかった。
ちなみに現実に目を向けると、バイデン大統領の次席補佐官にも女性がおり、比較的名前がよく登場するのはJennifer O'Malley Dillon氏。
バイデン大統領は歴代の大統領と比べると、比較的女性比率高めに登用しているらしい。
エレン大統領はフィクションとはいえ、女性の次席補佐官が活躍するというのは現実に即していると言えるだろう。
アレックスの香水 LE LABO SANTAL 33
狭い倉庫みたいな部屋で不本意に密着したアレックスとヘンリー。
そこでヘンリーがアレックスの香水に気づいて尋ねる。
吹替では「LE LABOの香水?」、字幕では「NYの香水?」、英語では「Santal 33」と全部別の表現になっているが、同一のものを指す。
ニューヨーク発祥のLE LABOというブランドの、SANTAL 33という名前の香水だ。
ラグビーとアメフト
アレックスがヘンリーにキスされたことについて、ノーラに相談したとき。
キスの感想を聞かれて、このように返した。
日本語では意訳されているが、原文を見るとラグビーとアメフトの違いに例えていることがわかる。
ラグビーもアメフトも、アメリカ・イギリス両方で楽しまれているスポーツだが、アレックスの言い回しはアメリカならでは。
というのも、単語としてfootballはサッカーとアメフト両方を指すが、アメリカの場合はサッカーはsoccer、アメフトはfootballで言い分ける。
イギリスではfootballはサッカーのこと。
ラグビーやアメフトに詳しくない人からすると、どちらも楕円形のボールを使って、ガタイの良い選手がタックルするスポーツ、みたいな印象かもしれない。
実際には以下のようにいろいろと違いがある。
そのため、似ているものでも違いはある、という例えとしてラグビーとアメフトという表現をしている。
レッドルーム
アレックスがシークレットサービスに無理を言って、ヘンリーと二人っきりで会った場所。
ホワイトハウスの中に実在する部屋。ケネディ大統領の時代に造られた。
1階にある、名前の通り赤い部屋。壁紙や調度品が赤色で統一されている。帝国時代のアメリカをテーマにしている。
ちなみに他にも色にちなんだ部屋は、同じく1階にブルールーム、グリーンルーム、2階にイエローオーバルルームもある。
それぞれ順に、フランス帝国、連邦様式、フランスのルイ16世をテーマにしている。
ちなみに、国賓を招く公式晩餐会は、見取り図の左側ステートダイニングルームで行われる。
そのためあの密会は晩餐会のすぐ隣の部屋だったのだろう。
右側の大きなイーストルームも晩餐会に使われるようだが、であればシークレットサービスはレッドルームではなく、グリーンルームを指定するはず。
そのため晩餐会の会場はステートダイニングルームと考える方が自然かと。
感謝祭と七面鳥
感謝祭で大統領が七面鳥に恩赦を与える恒例行事の前日、アレックスの部屋に七面鳥がいることになったシーン。
感謝祭が何か、なぜ七面鳥なのか、大統領がなぜ恩赦を与えるのかなど、日本人的に馴染みがない要素が多いだろう。
感謝祭とは、日本語ではそう訳されるため「祭」とつくものの、ニュアンスとしては祝日。英語ではThanksgiving Dayと言う。
アメリカの祝日で、収穫に対する感謝をする日のこと。11月の祝日だ。
由来はアメリカ開拓時代にまでさかのぼる。
イギリスからアメリカに移民としてやって来て、アメリカを開拓していった人々が、アメリカの先住民から作物の栽培知識を習い、育てられるようになった。
その後、特に収穫が多かった年に、その先住民を招待して一緒に恵みに感謝しながらごちそうを食べた。
そこから感謝祭が形成され始めた。
時がだいぶ経ち、リンカーンの時代になると、感謝祭を休日に定めて、当時南北戦争で疲れ果てていた国民が、家族で集まれるように努めた。
それが現在の様式に根付いており、感謝祭は家族が絆を深めるための祝日、伝統行事という位置づけで認識されるに至る。
感謝祭の日は主に夕食で、家族や親しい友人と祝う。
メインディッシュは七面鳥。
これは前述の、先住民と食べたごちそうが七面鳥だったと言われているかららしい。
七面鳥への恩赦
で、なぜ大統領が七面鳥に恩赦を出すのか。
恩赦とは、司法手続きなしで罪の一部またはすべてを帳消しにすること。
ただこの七面鳥は別に罪を犯しておらず、慣例的にというか、ワードチョイスの面白さ的に「恩赦」と言っているだけだ。
リンカーン大統領の息子が七面鳥を助けるように頼んだことや、ケネディ大統領のもとに贈られた七面鳥を食べなかったこと、そしてそれをブッシュ(パパの方)大統領が公式行事にした、ということらしい。
昨年2022年も恒例行事として、バイデン大統領から恩赦が与えられた。
姓に"Z"がつく者
アレックスがヘンリーに対して言うセリフ。
アレックスのフルネームは、Alexander Gabriel Claremont - Diaz。
アレグザンダーのニックネームがアレックス(Alex)。
ミドルネームのガブリエルはキリスト教などに登場する天使の名。
クレアモントは母親の、ディアスは父親の姓だ。
クレアモントは英語的な姓で、アメリカやイギリス、オーストラリアなどに見られる。
それに対して、ディアスはスペイン語の、つまりメキシコなどからの移民などを指すヒスパニック系の姓。
「姓にZのつく」というのはメキシコの姓の特徴というか、あるあるみたいなものだ。
Diazもそうだが、Hernandez、Martinez、Lopez、Gonzalezなど、末尾がZの姓が多い。
そして母親の姓 - 父親の姓というように、両親それぞれの姓を受け継ぐというのもメキシコの名前の特徴だ。
彼の容姿と相まって、名前を聞けばアメリカ人とヒスパニック系移民の間の子だと十分に推測できるのだ。
そして、ヒスパニック系移民がなぜアメリカに来るのかと言うと、祖国では貧しいからだ。いわゆるアメリカンドリームさながら、仕事と収入をもとめてアメリカにやってくるのだ。
こういった点から、彼の容姿と喋り方に近い人、つまりヒスパニック系移民は貧困である傾向があり、それ故権力の座につける者は少ない、ということをアレックスは説明している。
ちなみに、この話の直前に父親がメキシコからアメリカに来た時のことについて触れている。
日本語訳では少し端折られているが、父親は12歳の時に祖母(あえて英語のgrandmotherではなく、スペイン語のabuelaと言っている)に連れられて来たと言っている。
差別される側
アレックスはヘンリーと初めて出会ったとき、ヘンリーが侍従に対して「耐えられない」と言ったことを、自分への蔑んだ表現ととらえていた。
実際には、ヘンリーは父の死から立ち直れていないのに公務に出なければならないという状況に対して「耐えられない」と言ったのだが、そんな背景事情をアレックスは知らないため、認識のすれ違いが起きている。
まあ確かに、自分に向かって「耐えられない」と言われたと思ったら傷付くだろう。
だがこれはアレックスの生い立ちも強く影響している可能性が高い。
ヘンリーはイギリス王室の人間で、わかりやすい「白人」だ。
そして、欧米ではしばしば白人以外の人種は差別対象になることがある。黒人も、私のようなアジア人も、ヒスパニックも。
アレックスにとってはただ暴言を吐かれただけではなく、差別されたととらえたのならば、そしてその発言した者が、近づきたかった相手だったら、傷つき怒ってもおかしくはないだろう。
一つ星の州テキサス
アレックスの故郷テキサス州は「一つ星の州(Lone Star State)」とも呼ばれている。実際、アレックスがヘンリーにそう表現した。
これはテキサス州の州旗にちなむ。
国旗と同じように、州にも固有の旗があるのだ。テキサス州の場合はこれ。
赤、白、青の色味はアメリカ国旗と同じ。
一つ星は神・州・国への結束を示す。
かつて9年ほど存在したテキサス共和国時代の国旗を引き継いでいるデザインで、もともとのデザイナーは不明。
錆びた工業地帯(Rust Belt)
1950年代以降、製造業が衰退している地域。
「錆びた(Rust)」という表現は、その製造業の多くが製鉄業、自動車業、石炭採掘などだったため。
製造業が衰退することで人口は減り経済の停滞に悩まされている地域となる。
錆びた工業地帯はアメリカで中西部と呼ばれる地域と重なる。
個人的に中西部と聞いてもっと西側を想像したため、地図を見て「いや東では」と思ってしまった。
西部というと地図の左半分で、中西部というとあの赤いあたりになるそうだ。不思議……。
大統領のリクエストは爆速で応える🆕
エレンは息子のカミングアウトを受けて、まず内線でピザを注文した。
現実の大統領のリクエストをふまえると、ピザは多分とんでもない速さで届いたと思う。
この動画は、アメリカの有名人James Cordenが司会を務める
The Late Late Show with James Cordenの公式動画。
ホワイトハウスでのロケで、バイデン大統領と会っている。
そこで、ジェームズが「大統領がアイスクリームが欲しいといったらどれくらい早く届くの?」と聞いたところ、バイデン大統領がおもむろにデスクのボタンを押したら、見ての通り爆速で届いた。
(上記動画はちょうどそのシーンから再生するようにしておいた)
塩とライムとともに楽しむ酒テキーラ
テキサスで過ごす夏、アレックス、ヘンリー、ノーラ、ペズの4人で卓を囲んで飲んでいたショットの酒。
あれはテキーラだ。
テキーラはメキシコ原産の酒。
ショットの場合、ライムやレモンが添えられ、塩とライムを舐めつつショットを味わう飲み方が非常にポピュラー。
実際、彼らのテーブルの上に塩の入った瓶があるし、ショットを飲み干した後ライムをかじっている。
ちなみに最近、日本ではテキーラの飲み過ぎで急性アルコール中毒を起こして死亡した事件があった。
また、テキーラを使た酒で通称「レディキラーカクテル」と呼ばれる、女性を酔い潰して持ち帰る魂胆の時に勧める酒として使われる「ロングアイランド・アイスティー」というカクテルもある。
紅茶っぽい味で飲みやすいが、強めの酒が材料に勢ぞろいだ。
別にテキーラに限った話ではないが、お酒を飲むときは節度を守ろう。
あと知り合って間もなかったり、そこまで親しくない人に酒を勧められた時は、どんな酒か注意しよう。
テキサスの黄色いバラ
ヘンリーが選挙戦のために、縁起を担いで黄色いバラの柄のネクタイをしてきたことをアピールする。
「テキサスでは縁起が良いと聞いて」と。
これはテキサスに伝わる民謡『The Yellow Rose Of Texas』にちなんでいる。
この歌は1836年のテキサス独立戦争で歌われた。
当時メキシコ領だったテキサスが独立を目指して起こした戦争だ。
これに勝利しテキサス共和国が成立、その後アメリカに併合されてアメリカの一部となる。
歌詞中の黄色いバラとは、テキサスにいたEmily Morganという女性のこと。
彼女は奴隷で、メキシコ軍にとらえられるが、将軍から情報を聞き出してテキサス軍に伝え、テキサスの勝利を導いたと言われる。いわば愛国心の象徴だ。
イギリスの文化や風習
MI6
Secret Intelligence Service、略してSIS、日本語では秘密情報部。イギリスにある機関のひとつだ。
日本では、映画『007』でジェームズ・ボンドが所属していることで有名だろうか。
今では「MI6」という名は公的は使われておらず、SISの方を使っている。
MI6とは、かつて軍事情報(Military Intelligence)を扱う部署に1から順にナンバリングが振られており、その6番目に割り振られた部署だったことにちなむ。
いわゆる諜報活動をしていると言われている。
ヘンリーはMI6を使ってアレックスの連絡先を入手したらしいが、本当だろうか?
(ちなみに原作小説では、普通に直接連絡先を聞いている)
近親交配?
アレックスからヘンリーへのブラックジョーク。
イギリス王室に限らず、かつての各国の王族はわりと近い近親との結婚が発生していた。
その中でも特に有名なのはスペインのハプスブルク家。近親婚を繰り返した末に著しく不健康な王族が生まれ、子孫を残せずに断絶してしまった。
イギリス王室は現在も続いていることからわかるとおり、もちろんそこまで悲惨ではないが、ある程度の格式や血筋の良さを気にするがゆえに血縁者との結婚がまま発生している。
比較的近年の話で言えば、女王エリザベス2世の夫フィリップは、遠いものの女王の血縁者だ。女王の曽祖父とフィリップの曾祖母が兄妹。
まぁとはいえ、サザエさんで例えられないくらいの遠さだ。一般人でも偶然でこれくらいの近親での結婚は起こりそう。法的にも倫理的にも何の問題もない。
時差と痴れ者
感謝祭前日の夜、アレックスとヘンリーは電話で会話している。
この時ヘンリーがアレックスに対して言った言葉が、吹替では「痴れ者」という表現になっている。
ちょっと聞きなれない表現に感じたが、要するに馬鹿者という意味だ。
なお英語では「bellend」と言っていて、これはイギリスのスラングで男性器のことで、つまりはだいぶ卑猥な表現で馬鹿者と言っている。
(bell=鐘のend=頭、でなぜ卑猥になるかは想像にお任せする)
で、なぜ馬鹿者かというと、この電話が午前3時にかかってきているから。
アメリカのワシントンD.C.とイギリスでは時差が5時間ある。
アメリカでは夜22時でも、イギリスでは午前3時だ。アレックス的にはそこまで遅くはない、これから寝ようかというタイミングで電話したのだろうが、ヘンリー的には思いっきり深夜なわけで、まぁ普通に考えたら馬鹿者と言いたくなるものわかる。
ブリティッシュ・ベイクオフ
不眠症のヘンリーが観ている料理番組。
アマチュア料理家による料理コンテスト番組で、テーマに沿ったパンやお菓子などを作り、出来栄えを競う。
アマプラに日本語字幕版があったので、『赤と白とロイヤルブルー』を観られる人はみな視聴可能なはず。
デヴィッド・ボウイ
ヘンリーの愛犬の名前がデヴィッドの由来。
イギリスの伝説的ロックミュージシャン。
1970年代以降はアメリカでも活動したため、イギリスでもアメリカでも、というか世界的に有名。
2016年に亡くなった故人だが、2017年に遺作がグラミー賞を獲得した。
メイポール
ヘンリーがアレックスから性指向を尋ねられた時、こう回答する。
これは日本では馴染みがないし、アメリカでも馴染みのない表現なようで、アレックスは「それなんだよ」と聞き返している。
メイポールとは、ヨーロッパの民族的な風習に見られる高さのある木の棒。この周りで踊ったりする祭りが5月(一部の国では夏至の時期)に行われる。
日本人が見たことがあるとしたら、映画『ミッドサマー』や、ゲーム『どうぶつの森』の家具あたりだろうか。
その起源は不明なものの、主にヨーロッパで見られるものであるため、アメリカ人のアレックスがそもそもメイポールを知らなかったのも無理はない。
で、疑問として湧き上がるのが、なぜヘンリーがこれをゲイの象徴のように表現したのか?だ。
メイポール及びそれを使って行われる祭りは、特段ゲイやLGBTQ+に関するものではない。
これに関しては、私は二通りの解釈ができるのではないかと思う。
ひとつは、メイポールの起源として、イギリス人哲学者トーマス・ホッブスが男根の象徴である説と唱えている点。
もうひとつは、以下の記事で解説されているが、メイポールを使って活気づく祭りに着目して、その陽気さや活気を、自身をゲイと認めるにあたり前向きさを強調する表現として使ったという、知性あるユーモア的な表現だ。
陛下と殿下
ヘンリーは自分を呼ぶときは陛下ではなく殿下と呼ぶように言う。
陛下(Majesty)は国王や皇帝、日本であれば天皇や上皇に対して用いる尊称。要するに君主に対して使う表現だ。
殿下(Highness)は君主以外の王族や皇族に使う敬称。
つまりはめっちゃ正しい指摘だ。
ポロ
ポロとは馬に乗り、マレットという木製のスティックで球を打ってゴールに運ぶスポーツ。
ポロシャツの「ポロ」はこの競技の際に着用していたことが由来。
世界最古のスポーツのひとつと言われている。
アレックスがポロを知らないとは言わずできないと言ったことからわかるように、アメリカでも競技自体は行われている。
ちなみに日本では本当にマイナー。
その理由は、個人で扱う馬が最低でも2頭、できれば4頭必要だから。
乗馬自体の普及率が低い中で、広い競技場と馬の頭数を揃えなければならないという条件の難易度が高い。
パンツとトラウザーズ
アメリカ英語とイギリス英語の違いで、しばしば話題に上がることだ。
一括りに「英語」と言っても、頻繁に使う語彙の違いがある。
その一例がこれ。ズボンのことをアメリカ英語では「パンツ(pants)」、イギリス英語では「トラウザーズ(trousers)」ということが多い。
アメリカで「トラウザーズ」を全く使わないわけではないし、通じないわけでもないが、「やたらかしこまった言い回しをするなぁ」みたいに感じられる表現。正装っぽいスタイルを想起させる感じ。
ちなみにこういった語彙の違いは他にも結構ある。
印章指輪(シグネットリング)
もともとヘンリーが左手小指につけていた金色の指輪。
イニシャルなどが刻まれており、もともとはその部分を溶けた蝋に押し当てて手紙の封をするなど、認印のような役割で使われていた。
現代でもイギリスには根強く残る文化で、かつてのイングランド王エドワード2世が公式文書には印章指輪での印が必要としたことで、王族・貴族の重要アイテムになった。
今ではその名残で、歴史あるアイテムとして紳士が好むアイテムになっている。
左手小指につけるというのも伝統的なスタイル。
現代でも国王チャールズ3世の左手小指に印章指輪があるように見える。
下記は一例だが、チャールズ3世の手元を見ると、たいてい同じ形の金色で表面が平たく丸い指輪がある。
「その人を物語るのは何を言ったかではなく何をしたかだ」『分別と多感』より
不安を吐露したアレックスに向けて、ヘンリーが励ましの言葉として贈るために引用したフレーズ。
『分別と多感(原題:Sense and Sensibility)』は、イギリスの小説家Jane Austenの作品で、1811年に発表された。
ヴィクトリア&アルバート博物館🆕
二人が夜中忍び込んだ、ロンドンにある国立博物館。
ヴィクトリア女王と夫アルバートが基礎を築いたため、二人の名が冠されている。
ケンジントン宮殿から徒歩18分らしいので、十分歩いて行ける距離だろう。
※埋め込みが上手くいかず、自動車でのルート表示になっているかも。手動で徒歩経路に変更できるはず…
(ヘンリーがいるのってバッキンガム宮殿ではなくケンジントン宮殿であってます?)
二人が走り抜けたのは中世とルネッサンス期のギャラリー。
フロアマップを見ると、room21~24がひとつながりになっており、彫刻が多数展示されている。
二人がダンスをしたのはここだろう。
二人の趣味趣向
アレックスが読んでいた本
James Baldwin著『もう一つの国』
アレックスがヘンリー勧めた本その1。
著者はアメリカの黒人作家。
黒人と白人の恋愛、性的関係や異性愛・同性愛について触れている。
Gabriel García Márquez著『コレラの時代の愛』
アレックスがヘンリーに勧めた本その2。
著者はコロンビア人作家。
初恋の女性を51年9ヶ月4日待ち続けた男の愛の物語。
1890年代末から1900年代頭にかけての、コロンビアの内戦とコレラが蔓延する時代を描いている。
Casey McQuiston著『One Last Stop』
テキサスで過ごす夏、アレックスがハンモックで読んでいた本。
Casey McQuistonは『赤と白とロイヤルブルー(原題:Red, White & Royal Blue)』の作者だ。
(選挙速報中のシーンで、大統領のスピーチ原稿を書き留める役として出演もしている)
ロマンス小説で、主人公の女性Augustは田舎からニューヨークに出てウェイトレスとして働いている。
バイセクシャルだが真の愛には懐疑的。
そんな中で、地下鉄で乗り合わせた女性Janeに恋をするが、彼女には「時間が止まっている」という謎があった。
全体的に、その時代の中での葛藤や情熱と恋愛の話が好みなのかな、という印象。
ヘンリーが読んでいた本
Zadie Smith
ヘンリーがアレックスに対して、もう読んだと言ったイギリス人作家。
初の長編作『White Teeth』がベストセラーになり、数々の文学賞を受賞している。
Oscar Wilde著『ドリアン・グレイの肖像』
ヘンリーがアレックスに勧めた本その1。
著者はアイルランド人作家。同性愛をとがめられて収監され亡くなってしまった。
美青年ドリアンが自分自身は老いず、肖像画のほうが老いればいいのにと言い出したところ、その後本当に彼は若く美しいまま、肖像画は醜く変貌していく。
そのような自身の肖像画に踊らされる半生の物語。
Gustave Flaubert著『ボヴァリー夫人』
ヘンリーが勧めた本。フランス文学の名作。
農民の娘エマは平凡な医師シャルルと結婚するが、その生活に飽き飽きしている。
やがて浮気や無駄遣いにハマってしまう中で、シャルルは手術に失敗し、さらに失望したエマは他に刺激と楽しみを求めてしまう。
バイロン卿の詩
ヘンリーがアレックス(とノーラにも?)勧めた詩。
バイロン卿とはイングランドの貴族であり詩人ジョージ・ゴードン・バイロンのこと。1700年代末~1800年代頭の人物。
作中に使った「事実は小説よりも奇なり」という表現は現代でも使われることで有名だろう。
Bernardine Evaristo著『Girl, Woman, Other』
テキサスで過ごす夏、ヘンリーがハンモックで読んでいた本。
2019年にブッカー賞を受賞し、オバマ元大統領が推薦書のひとつに選んだ書籍。
レズビアンで社会主義者のAmmaという黒人女性を中心に、イギリスの黒人女性12人の人生を追っていく。
ヘンリーは人生の葛藤に焦点をおいているようで、恋愛的な幸せ、ハッピーエンドには重きを置いていなさそう。
ヘンリー自身の境遇を重ねているのか、人生の思い通りにならないところを読み解きたいように見える。
ヘンリーが好きな映画
花様年華(In the Mood for Love)
2000年の香港映画。
ジャーナリストのチャウと、たまたま隣に引っ越してきた夫婦の妻スーの愛の物語。
既婚者だからという制約や、距離を詰めるか否かの決意の揺らぎが互いに葛藤を生む。
チャウは壁の穴に何かを囁き、土で塞いで永遠に封じ込める。囁いた思いが何だったのかは誰にもわからない。
本がイギリス人作家のものばかりだったから少し意外だったが、内容を聞いて納得。熱い思いがあっても葛藤の末に封じ込めるのは、かなりヘンリーっぽい。
アマプラにもあったが日本では現在視聴できないらしい。
U-NEXTだったらあった。
性的指向
マイノリティ
これは国の文化や風習とは言えない話なので切り分けよう。
アレックスが母親エレンにカミングアウトした際、エレンは全面的に優しく受け入れたうえで、このように質問した。
近年ようやく異性愛者以外の恋愛・性的指向について世の中に大々的に広まるようになり、LGBTQ+という表現も使われるようになってきている。
しかしまだLGBTQそれぞれが何を指すのか、「+」の中にどんなものが含まれているのかまで正確に知っている人となると多くはないかもしれない。
もちろん知っている人もいるとは思うが、映画の大事な題材でもあるので、あらためて確認しておこう。
L:Lesbian/レズビアン
(女性を自認し、恋愛・性の対象が女性な人)G:Gay/ゲイ
(男性を自認し、恋愛・性の対象が男性な人)B:Bisexual/バイセクシャル
(男性も女性も恋愛・性の対象になる人)T:トランスジェンダー/Transgender
(性自認が身体の性とは異なる人)Q:Queer/クィア・Questioning/クエスチョニング
(特定の枠組みにとらわれなかったり、まだ自分の恋愛や性の指向が定まらない人)+:上記にあてはまらない少数の恋愛・性的指向を持つ人
エレンはたくさん選択肢をあげたが、「フルイド」と「パン」はLGBTQ+の中では「+」になる。
Fluid/フルイド:
性自認が揺れ動く人。不規則に変わる場合もあれば、場面や状況によって変わる場合もある。昨日は男性だったけれど、今日は女性、みたいなことがあり得る人。
(fluidはもともと「流動的な」という意味)Pan/パンセクシャル:
全恋愛とも言う。男性や女性という性の分類にとらわれず、あらゆる人が恋愛・性の対象となる人。
エレンはかなり網羅的に選択肢を提示している。
アレックスがそもそも息子なのでレズビアンは選択肢から除外し、そのうえで息子の普段の様子から、性自認が基本男性だろうということをふまえつつ、あり得そうな選択肢をできるだけ出していることがわかる。
母エレンの超具体的なアドバイス
アレックスが母親エレンにカミングアウトした際、エレンは大きく分けて2つのアドバイスを贈る。
ひとつは将来を左右する恋愛になるからよく考えろ、というもの。
そしてもうひとつが性感染症への予防。
予防については細かく3点挙げていた。
肛門に挿入するならコンドームつけろ
HIVワクチンがある
挿入される側ならHPVワクチンもある
HIVは日本でもたまに話題に出るが、HPVのほうは稀かもしれない。
HIVとはHuman Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)のこと。
ヒトの免疫にとって重要な細胞に感染するウィルス。
感染すると免疫力が下がって病原体に感染しやすくなり、病気を発症しやすくなる。
この状態をエイズ(AIDS:Acquired Immuno-Deficiency Syndrome、後天性免疫不全症候群)という。
主な感染経路のひとつが性的感染、つまり性行為によるもの。
男性の場合はコンドームなしで肛門挿入した際、どちらかが感染していると、相手も腸や男性器の細かい傷から感染し得る。
ちなみに英語ではワクチン治療薬(または予防薬)として「Truvada」という名称が出ていたが、これは薬の商品名。
主な用途はHIV治療。一応、治療薬または予防薬とあり、感染リスクが高い人に対しては予防のためにも使用されるらしい。
※2023/09/05 ワクチンではないため、表記を訂正しお詫び申し上げます。
HPVとはHuman papillomavirus(ヒトパピローマウイルス)のこと。
子宮頸がんの原因になるため、男性より女性の方が認知度が高いかもしれない。
子宮頸がん以外にも、肛門がんや陰茎がんなどの発生にも関わる。
にしても、カミングアウトされて間もないのに、理路整然とこれらのアドバイスや説明ができるのは凄いな……。
映画を再度楽しもう
二人の生活の背景にある文化・風習や、彼らの趣味趣向を知ったうえで映画を再度見てみると、また別の発見ができたり、彼等への理解を深められるかもしれない。
終わりに
この記事は、私の書いたこれまでの記事の中でもっともスキ(♡ボタン)を押していただいた記事となった。
読者の方にはお礼を申し上げます。気づけば14,000字を超える長い記事になってしまったにもかかわらず、読んでくださる皆様。本当にありがとうございます。
私自身のSNSでは一切告知していなかったが、読者の方がX(旧twitter)で拡散してくださったようで、あれよあれよという間にビューもスキの数も伸びていってとても驚いている。
この記事の内容は、ひとつひとつはググれば見つけられる情報で、それをまとめたに過ぎない。いわば雑学の集合体というか、寄せ集めだ。
だが『赤と白とロイヤルブルー』で登場したかどうかという観点で寄せ集めたものがなかったから、たまたまウケたのだと思っている。
ゼロから1を生み出す才能には恵まれなかったが、二番煎じでも案外注目されるものなのだなぁというのを体感して、私としても貴重な経験となった。
それもこれも読んでくださる方々がいらっしゃるからこそなので、繰り返しとなるものの改めて、ここまで読んでくださってありがとうございます。
更新履歴
2023/08/15
初稿
2023/08/17
「性的指向」の章追加
「母エレンの超具体的なアドバイス」の項目追加
2023/08/18
「アレックスの香水 LE LABO SANTAL 33」の項目追加
「印章指輪(シグネットリング)」の項目追加
「ラグビーとアメフト」の項目追加
2023/08/19
「塩とライムとともに楽しむ酒テキーラ」の項目追加
2023/08/21
「ヴィクトリア&アルバート博物館」の項目追加
「大統領のリクエストは爆速で応える」の項目追加
2023/08/24
「大統領次席補佐官」の項目追加
2023/09/05
「母エレンの超具体的なアドバイス」一部修正
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