節目にはタトゥーで美しさを
体に色を入れる。形を入れる。消せないものによって気持ちが変わったり、変わらなかったりする。自慢のタトゥーを見せてほしい。タトゥーの話をもっともっとしたい。そこにはちょっと偏った自分だけのこだわりがあるかも。あなたの体はあなたのもの。
今回はヘアメイクと着付け師として活動する田口彩華さんの、首の後ろにある彼岸花の話。
インタビュイー:田口彩華(@ayaka_taguchi)
19歳からの美容師経験を経て、2017年からフリーランスに。
呉服屋での勤務の経験を生かし、若年層での着物離れを少しでも無くしたいという思いを元に、同世代目線だからこそできる着物合わせの提案や着付けをはじめ、着付け師として活動。
また、映画・MV等の映像系ヘアメイクを中心に活動中。
https://taaaaguche2525.wixsite.com/irodori
はじめてのタトゥーは彼岸花を
―この彼岸花がひとつ目のタトゥーですよね。入れたのはいつですか?
「8月末の夏に入れたのは覚えていて、2、3年前だと思います」
―デザインはどうやって決めましたか?
「彼岸花が私のすべての通勤路にあったんです。下北沢と高円寺の美容室のときも着物屋さんに勤めたときも、9月になったら絶対に咲いていました。彼岸花には葉っぱがなくて、いきなり咲く突発的な感じが好きで。もともと赤が好きだったから色もいいなとも思いました。植物はどんな社会情勢でも変わらずに四季折々咲いてくれるから好きです」
―縁がある花なんですね。デザインは持ち込みですか?
「だいたい持ち込みでやっていて、唯一彼岸花のときだけ彫り師さんと相談して描いてもらいました。いくつか送った水彩画を基にデザインしてもらって、色を決めて。彫る日に全部決めました」
―輪郭に黒のラインは入れてないですよね。
「ぼやけてしまうから少しだけ黒が入っています。でも基本的に黒は入れません。私は目とか睫毛とか、もともと持っている黒の色素が濃いので、これ以上黒を足さないほうがいいかなって。あとは輪郭が出ると怖い印象になる気がして黒は入れないようにしています」
―田口さんはもともと赤が好きでよく赤い服も着ていますが、背中に同じ色が入っていることはファッションに影響しますか?
「気にしたことはないし、合わなかったこともないです。どぎつい赤じゃないからかな? 服もタトゥーも、そもそも自分に合わないものは選んでいないかもしれません」
視線をコントロールする後ろ姿
―どうしてこの位置に?
「美容師をしていたときに『人間は前から見られることより後ろから見られることのほうが多い』と言われて、後ろ姿は大切だと思ったからです。首の後ろにタトゥーが入っていたらそこに他人の視線がいくので、シャキッとしやすいかもって。見える位置だったから他人からの視線も考えて入れたのかもしれません」
―視線をコントロールできるんですね。首の後ろに入れると自分で見えませんが、普段はどういう気持ちですか?
「すごく気に入っているから見えないのが嫌だなって思うときもあります。だから自分のサイトや名刺に入れがちです。『なんで彼岸花なの?』ってよく聞かれるので『これこれ~!』って見せています。
入れたときは夏だったから背中が開く服をたくさん買ったり、毎日お風呂上りには鏡越しに見たりしていました(笑)。でも今は慣れてきて、『あるな』って感じ。」
―耳元のタトゥーも自分では見えにくい場所ですね。
「他人から見えるところに入っているのはいいけど、自分から見えるところに入れるのは違和感があります。他人からの視線が気になるからこそ、他人から見えるところに入れているのかな?」
―タトゥーを入れてから失敗したと思ったところはありますか?
「サイズを大きくしたかったものはあるけど、だんだん気に入ってきたし問題ないですね。それ以外はなくて、どれも気に入っています」
―初めてのタトゥーは失敗するってよく言いますけどね。
「ひとつ目の彼岸花が一番気に入っているから、私も嬉しくて」
美しいものを刻んで生きていく
―彼岸花を入れたときは意味も考えましたか?
「花言葉は後付けだったかもしれません。重い愛情系、『めちゃめちゃ愛します』みたいな感じなんですけど、それは後から知って『そうなんだ』ってくらい。生涯でずっと残るものだから、人から嫌われるものを入れないようにしようとは考えていたり、年齢とともに肌が下がってこないところに入れています」
―タトゥーを入れに行くタイミング、決め手になるものは?
「入れたいデザインと位置が決まって、予約が取れたときにすぐ入れます」
―入れる前は悩みましたか? それとも直感でしたか?
「直感かな。人生の分岐点に入れたかった気持ちがあります。自己肯定感を上げたい、これがあるから強く生きられると思うのが彼岸花のタトゥーです」
―直感で決めているとはいえ軽い気持ちで入れるわけではないと思うので、彫り師さんとの相性も大事だと思います。
「いつも彫り師さんと近い気持ちで作品を作れているから、それがタトゥーを入れていて一番きれいだと思うし、同じスタジオで入れ続ける理由でもあります。美容院でも似た感覚があると思いますが、同じ気持ちでいられるから居心地がいいです」
―ジャグアタトゥーやタトゥーシールもあるのに痛い思いをして、リスクを背負って入れたのは何故ですか?
「アクセサリーに近い気がして、それを身に着けたり外したりするのは自分の気持ち次第でいくらでも動かせるから、そういうブレがないものが欲しくて。美しいものを体に刻むことが単純にいい行為だとも思っています。私がどんなに衰えようがきれいなままでいてくれるから。
ピアスを開けたときの気持ちと似ているかも。何か進化したいんだと思います。ちょっとだけ」
―衝動的に金髪にしたくなるような気持ちに近いんですかね。
「そうかもしれないです。その手段が変わっていった感じ」
プロフィール写真提供:田口彩華
撮影/すなば(@comebackmypoem)