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青空物語 第10話 解き放された思い
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第10話 解き放された思い
部屋には時折ピピッというフェニックスの機械の音だけが響いていた。
静かな時間だった。
時折窓から生暖かい空気が入ってきてカーテンが揺れていた。
蒼はたとえ機械から聞こえている声であっても、自分にとって治はなんら変わらないのだと思い始めていた。
しばらくして治がまた話し始めた。
「わしが何かを仕向けるようのなことはあってはいけないと思ったんだ」
「仕向ける・・」
「自然も人も、それぞれが共に生き時折、自然と混じり合っていく。自然はむやみやたらといじるものではない」
「いじるものじゃない・・」
「ああ、人の人生も地球の行く末もな。自分の人生ならばまだ・・そう思ってな」
蒼は治のベットに近づき治の手をとった。
治の手は温かかった。
「お前は生まれるまで時間がかかってなあ」
「うん・・お母さんから聞いたことがある」
「お前が生まれた時は本当にほっとして嬉しかった」
「うん」
蒼は流れ落ちる涙を抑えきれなかった。
「ただな、お前の名前をあおいとつけたと綾が連絡してきた時にな、ふと、わしは順子が持っていったクウのことを思い出したんだ」
「うん」
「クウのことを何も知らない綾がつけた名前と偶然にも重なったクウの名前が、気になった」
「私とクウの名前」
蒼は横にいるクウを見た。
「ああ、最初は気のせいだろうとも思ったんじゃ・・・たかが言い伝えだからな」
「空が青を連れてくる時・・」
「そうだ。・・だが、考えているうちにな、わしは順子が言っていたナブンとナルの掛橋になりたいといっていたことが関わっているのではないかとも思い始めたんじゃ」
「掛橋になりたい・・」
蒼はユンのおばあちゃんが言っていた順子が目的があってナブンに渡ったと言う話を思い出した。
「ああ。順子に言ったら、笑われたよ。そして叱られた。まだこんな小さい子に大人が何を勝手に決めるんだと。私のことはあくまで自分が決めたことで、誰かに押しつけるものではないとね」
「・・・」
蒼は黙って治の言葉を聞きながら順子のことを思い出していた。
「その通りだと思ったよ。あの子はしっかりしてた。新しい土地で根を生やして頑張っていた」
「・・うん、私はあまり順子おばあちゃんのこと知らないけど、よくお母さんとおばあちゃんもそう言ってた」
蒼の曽祖母にあたる順子は蒼が小さい頃にもうだいぶ歳をとっており、寝ていることが多かった。そのため蒼は順子とあまり話をしてこなかった。
治の話を聞いて、もう少し順子と話せばよかったと蒼は思った。
「そうか・・そんな順子にわしは何もしてやれなかった後悔があったんだな。わしの思い込みや願いがそんな迷いを連れてきてしまったのだろう、そう思ったんじゃ」
「おー爺ちゃんの願い・・」
「・・自分勝手な思いに縛られて、お前まで巻き込むなんてな。こんなに可愛い孫を・・」
「自分勝手だなんて」
「・・親のエゴじゃ。わしにはお前も大切な孫だ。・・だからわしはお前にクウを渡すのも花乃に任せたんじゃ」
蒼は祖母がクウを蒼にくれた時、クウを渡そうか迷っていたと言っていたのを思い出した。
「でもおばあちゃんは、私にクウをくれた」
「そうだ。・・その後、順子が亡くなっただろう。順子は目的があってナルに渡った。そして旅立っていった。順子が言うように順子なりの何かを残したのだからそれでいいと思ってたんだが。」
「うん・・そう言ってたね」
蒼は、治が何もしてやれず、娘を自分より早くに失ったことに自分を納得させながも何かしてやれなかったかと人しれず悩んでいたのだと知った。
「お前に順子の・・家族の何かを無理やり背負わせたくなかった。しかし、もしかしたらというのが少しずつ振り返してきてな」
「私が生物学に興味をすごく持ってたから・・」
「ああ」
治と連絡が取れなくなる頃、蒼は理系のものだけ3学年上の授業を受けられそうなことを治に話していたことを思い出した。
当時、蒼は生物学にとても興味があり、治と話す時によくまとめて質問をしていた。
飛び抜けて生物学や理系の科目ができた蒼にとって、なんでも答えてくれる治は辞書のようで、蒼はその時間を楽しみにしていたのだ。
「そうこうするうちにナルでの研究もあと一歩というところにきた。しかし、それには多少の危険も伴った」
「・・それで連絡をくれなかったの・・もっと私が早くに気がついていれば・・」
「蒼、この時間は必要な時間だったのだよ。確かにわしはもしかしたらお前がクウを連れてデーターを持ってくるのではないかと思っていた」
「だったら・・」
蒼が言う前に治は続けた。
「しかし、他の誰かであってもな。きっとこの研究が最後の段階に入るまでわしは自分の寿命に逆らっていただろう」
「おー爺ちゃん」
「わしが許される唯一の自然への抵抗だな」
「そうだったんだね・・私会えておー爺ちゃんとまたこうして話せて嬉しい」
蒼は思いを口にしたことで自分の戸惑いがはっきりと消え、ふっと体から力が抜けていくのがわかった。
「蒼、よくきたね。・・すまんな、結局わしはお前を巻き込んだ」
「おー爺ちゃん、私は自分の意思できたんだよ」
「・・そうだったな、大きくなったなあ、蒼は」
そう治はしみじみと言った。
蒼はギュッと治の手を握った。
優しい時間が流れる。
しばらくして、蒼は隣にいるクウを見て思い出したように言った。
「おー爺ちゃん、クウがね。思いは私のものだけど、私は思いのものでないって言っててね」
「・・クウが」
「はい、ワタシが昨日言いました」
蒼はうなづきクウを撫でながら続けた。
「おー爺ちゃんの思いは十分に伝わったよ。私はその思いを大切にする。でも、おー爺ちゃんはもうその思いは解き放って」
「・・蒼」
「順子おばあちゃんが自分で選択してナブンにきたように私は自分の意思でナルにきたの」
「そうだな」
蒼は深く息を吸っていった。
「それはね・・言い伝えかもしれなかったかもしれないし」
「・・・」
「もしかしたら、そこにはおー爺ちゃんと、順子おばあちゃんの思いがあったからかもしれない」
「ああ」
「けど、それは血のようなものなんだと思うの」
「そうか」
「その思いを私は大切にしたい」
「ありがとう」
蒼は治の声を聞いて微笑み頷いた。
「でも・・その思いに私は振り回されないよ」
「蒼・・」
蒼の目にはもう迷いがなかった。
自然に逆らわない、そう言った治の言葉の如くピースが自然と揃っていったのを蒼は感じていた。
「おー爺ちゃん、私ね。自分の思いに振り回されてたなあって思って」
「蒼の思い?」
「私、ナルでも色々人と自然とうまくいく方法がわからなくて・・人の思いにも振り回されてたんだと思う。・・ナルにきたら何かが得られると思ってたの」
「そうなのか」
「確かにナルのデーターも手に入れることができたんだけど」
「ああ」
「でも私が手に入れたものや求めてたものはもっと違うもので、元々私の中にあったものなんだと思う」
「そうか」
蒼は頷いて、笑顔で言った。
「私が自分でナブンでおー爺ちゃんと同じことを進めることだってできたでしょ?」
「蒼が・・か?」
静かだったユンやおばさんも背後で、びっくりしているのがわかり、蒼はおどけて続けた。
「そりゃあ、もちろんね・・時間はかかったと思うけれど・・。でも場所はどこでも良かったんだなって思ったの、データーはもちろんあったほうが進むし、ここにきておー爺ちゃんとも話ができて、それはかけがえの無いものなんだけれど」
「・・・」
「自分の思いもおー爺ちゃんの思いも、順子おばあちゃんの思いも大切にする。でもそこに振り回されはしないから安心して」
そう一気にいう蒼の言葉を聞き、
「お前は順子の孫だなあ」
そう言って治は笑った。
和やかな空気が流れ、それを待っていたかのようにクウが喋り出した。
「アオイはオサムさんの孫でもあります」
「そうだね」
そう言って蒼も笑った。
「クウも成長したな・・まるで人間のようだな」
「そうだね、私も時々そう思う。AIだけれどすごく大切な家族だよ」
「そうか」
「おー爺ちゃん、私伝え忘れたことがあるの」
「なんだ」
「クウを作ってくれてありがとう」
窓からは優しい青空が時折のぞいていた。
第11話 希望 へ
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本日まで、お付き合いいただきありがとうございました。
夜もう1話をアップして終了となります。
よろしくお願いします。
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