着ぐるみ
一昨年、友人の大学の学園祭に行った。
キャンパスの構造がわからなく、その大学のノリにも慣れていないので、学祭本来の楽しさが潜在的にしか感じられず、そのまま時間が過ぎ去ってしまったのだが。
帰る前、中庭のあたりでキャンパスのマスコットキャラクター(言いにくいが、着ぐるみ)とのふれあいイベントが催されているのが見えた。
着ぐるみは、女子大生をはじめとして多くの人に群がられ、ちやほやされていた。
いいなぁ。わっしも着ぐるみの中に入って、みんなにちやほやされたい。
そして、みんながちやほやしてくれるのは、わっしの魅力ではなく着ぐるみのキュートさによるものだと気づいて、悔しくなりたい。
その悔しさをバネに、チョコザップでトレーニングしたい。
そしたら、そのチョコザップがたまたまカラオケ併設タイプの店舗だったので、トレーニング後に一人で熱唱したい。
カラオケを通じて歌唱力に自信がつき、NHKのど自慢のオーディションに応募してみたら、見事勝ち上がりたい。
その後、のど自慢で歌っている映像が何者かに無断アップロードされてしまい、何年にもわたってインターネットの世界で嘲笑されたい。
やがてインターネットの世界は終焉を迎え、すべてがアナログだったあのころに戻りたい。
ノスタルジックな世の中でテクノロジーを保持し続けるモノとそうでないモノとの間に軋轢が生じ、人類はどうなってしまうのかという不安に駆られたい。
いつしか不安は疑念に変わり、様々な争いが勃発する中で、「そんな流血に意味などない」と言って、平和を訴えたい。
力なき平和主義者は儚く散り、命の灯が消えゆく中で、この惑星の行く末を案じたい。
時は過ぎ去り、すっかりポストアポカリプスを迎えた惑星において、結局は愛を信じていた僅かな同胞の子孫たちが細々と生き残っていたい。
その生き残りたちは、再び未開の地となったこの景色に、冒険心を搔き立てられたい。
波乱万丈の冒険は驚きに満ちていて、いくつかの宝物を探しているうちに、かつてわっしの着ていた着ぐるみがオーパーツ的に発見されたい。
その着ぐるみに付着していた髪の毛などからDNAが採取され、数千年後にクローンとして復活したい。
そして、未来人たちに古代人としてちやほやされたい。
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