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桜万福

「うわぁ、顔がいっぱいわらってる」

手をかざしながら彼女は笑って言った。

「クスクスクスクスって」。

少し肌寒い春の日、僕たちは川縁の桜並木の下にいた。

少し遠出の花見にきたのだ。

澄んだ明るい水色の空、輝く満開の桜、ただ風だけがつめたかった。

僕らは持ってきたピクニックシートに寝転がって、満開の桜を下から仰いでいた。

寝転がって地面にいると、風はそれほど体にあたらず寒くなかった為、

満開の桜のした、僕は案の定うとうとしていた。

そのとき、彼女が言い出したのだ。

風に揺れる桜の花が

こちらをのぞきこんで

クスクス笑いあってる小さな顔のようだと。

その日の空は本当に澄んだ明るい水色で、桜の花は本当に真っ白で輝いていて、

ゆれる、万の花、万の笑い声。

目に焼き付いてゆくようだった。

くすくすくす幸せだねっ

と彼女はさも幸せそうに笑った。


ああ、そうだね。

僕はうとうと幸福だった。


#旅する日本語 #万福

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そら
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