SAR衛星から三河港の船舶をモニタリングする
2022年7月にスタートした豊橋市とのコラボレーション企画の続編!
豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。
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愛知県豊橋市にある三河港は日本の自動車輸出額2位、輸入額1位の「重要港湾」に指定されています。船舶は衝突防止のため『船舶自動識別システム(AIS:Automatic Identification System)』を発信することで、船名、船種、位置、針路、速度、目的地、積載物等を周辺船舶や陸上局に自動的に通知しています。
このAISから船舶が海上のどこにいるか把握できますが、人工衛星画像を用いてより詳細な船の混雑状況や港の稼働状況が分かれば、効率的な三河港の運用や物流の最適化、自動車産業の業績予測ができるようになります。
しかしながら、海は天候が乱れやすく雲がかかることよくあり、光学衛星では撮影できる日数が限られてしまいます。実際に、2023年豊橋で日照時間0.1 時間未満の日数は36日ありました。
そこで、太陽光の状況に左右されることなく自ら発した電波の跳ね返りを観測するSAR衛星のデータが船舶の確認に向いています。気軽にアクセスできるSAR衛星画像としてヨーロッパ宇宙機関(ESA)が公開しているSentinel-1のデータがあります。この記事ではEO Browserを使ってSentinel-1の画像を見てみることで、豊橋港の船の賑いを確認してみたいと思います。
EO Browserで豊橋港を見てみる
EO Browserを開いたらまずは場所を指定する右上のの検索窓「toyohashi」と入れ、左側のメニューにある衛星の中から「Sentinel-1」を選択します。
VH偏波のSAR画像を確認すると運搬船らしきものが2隻確認できます。
次に衛星画像の波長(バンド)を選びます。SAR衛星は電磁波の跳ね返り方がVV、HH、HVと3種類あり、それぞれの特徴があります。HHは発信と受信信号の波長の向きが同じライク偏波であるため、信号レベルを減らさずにキレイに見える事ができます。今回、各SAR偏波を試したところ、散乱係数と対数の積を取ったVH-decibel gammaが一番見やすいと感じました。
一方VH (HV)は、クロス偏波で船そのものの信号レベルも落ちるものの、海からの反射も押さえられるため船を見つけやすくなります。また、SAR衛星はH偏波とV偏波それぞれの受信機を付けるとコストが高くなるため、HHまたはVVのライク偏波で観測する事が主流となっています。今回、VHとVV2つの偏波をそれぞれ異なる方法で処理したデータを見比べてみました。VV偏波は全体的に、反射が強く船の大きさがわかりにくいと感じました。一方、VH-linear gamma0というデータでは反射が抑えられすぎて、港と海の区別がしにくくなりました。散乱係数と対数の積を取ったVH-decibel gammaを選択することで、大型船らしきものを見つけやすくなりました。
この画像に何が写っているのかをGoogle Mapsと照らし合わせて確認します。
Google Mapsで確認したところ、この港はトヨタの高級車やエンジンを生産している田原工場のものでした。モータープールに接岸しているので、自動車運搬船の可能性が高そうです。
次に2023年の1年間を通じてどれだけの日数、運搬船が確認できるか確認してみたいと思います。またSAR画像に写っているのが本当に運搬船なのか光学衛星(Sentinel 2)も用いて確認してみたいと思います。
同じVH偏頗のSAR画像でも複数日選択することで、港の変化がより鮮明に見えるようになります。
SAR衛星では撮影枚数が少なかったですが、毎回船の入港状況を確認することができました。
現在、Sentinel 1は1機が運用中なのに対して、Sentinel2は2機体制となっています。
そのため、梅雨や台風の時期に港が雲で覆われていた日数も多かったのですが、Sentinel 2の方が船を確認できる回数が多かったという結果になりました。
ただし、SARの撮影画像では毎回港の状態を確認できていました。2機体制であればより頻度高く港の状態を監視できるというのは心強いですね。
インターネット上の無料AISデータではリアルタイムの船舶情報をゲットできます。
衛星画像からは船体の情報がなかなか分かりません。そこでAIS情報を使って運搬船の名前や写真などを確認したかったのですが、無料AISデータでは情報を辿ることができませんでした。執筆時現在の情報はわかるのですが、過去に遡って、田原工場に接岸している船の情報は見れなかったです。より精度をあげて船の検出をするためには航行履歴データを販売しているサービスに問い合わせる必要があるようです。
まとめ
今回は豊橋市三河港の港、船の賑わいの確認に挑戦してみました。EO Browserを使うことで、コードを書いたり衛星画像を買ったりしなくても簡単に船の確認ができるのはすごいですね。
一方、SAR衛星は太陽光の状態に左右されないので船の確認に適していると言われるものの、無料データでは撮影日数が限られていたり、解像度が低いため運搬船ほどの大きさの船でやっと見れたりするという限界も感じました。
日本では、だいち2号やだいち4号はSARレーダーとAIS受信機を両方搭載することで、より詳細な「船舶情報」の把握を行っています。 他にも船舶情報専門の衛星スタートアップや無料船舶検出ソフト、分解能1mのKUバンドを搭載したSAR衛星も生まれており、より簡単に鮮明な船舶情報を得られる様になってきました。また、他のSAR衛生の事例としてモータープール・駐車場の利用状況確認にも挑戦してみたので、合わせて参考にしていただければ幸いです。
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