衛星データ利活用事例File.06:放置自動車を人工衛星を使って検出する
衛星データ解析実験室!sorano me×豊橋市
豊橋市とのコラボレーション企画!豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。2022年7月スタート!
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本件に取り組む理由
皆さんは放置自動車を見かけたことはありますか?
放置自転車ならたまに見かけますが、自動車はあまりないかもしれません。
お店の駐車場を一時的に利用しているだけかもしれません。
でも、駐車場の所有者から見れば利用していないお客さんに対しては駐車してほしくないことでしょう。
放置自動車があるとして、例えば人工衛星を使うとどんなアプローチが考えられるでしょうか。
衛星画像を撮っている人工衛星を利用して、流動性のあるはずの地点にずっと駐車している自動車があれば、放置自動車の可能性を疑えるかもしれません。
自動車が見えるくらい分解能が高い衛星データだと高額のため少し手を出しにくいかもしれませんが、将来的には無料で確認することも可能かもしれません。
本記事では現在無料のEO Browserを利用して、どんなことが確認できるか試してみたいと思います。
今回はこちらの手順で確認してみたいと思います。
Google Mapでセントレア空港の駐車場をみてみる
EO BrowserのSentinel-2でセントレア空港の駐車場をみてみる
EO BrowserのSentinel-1でセントレア空港の駐車場をみてみる
Sentinel-1によるSAR画像解析
1. Google Mapでセントレア空港の駐車場をみてみる
駐車スペースがたくさんある愛知県のセントレア空港を見てみます。
Google Mapの航空写真だとこちらのように確認できます。
credit: Google /Data SIO, NOAA, U.S. Navy NGA, GEBCO
これくらい解像度が高くて定点観測できるならば、放置自動車を見つけられるかもしれませんね。
でも、残念ながらGoogle Mapの航空写真ではいつ撮影されたかわかりません。「この日のこの時間帯を見たい」ということができません。そのためGoogle Mapは決まった箇所を解像度高く参照したい場合などに適しています。
ちなみにGoogle Earth Proなら過去に遡って時系列画像をみることができます。ただし、過去に遡るほど解像度は粗くなります。
2. EO BrowserのSentinel-2でセントレア空港の駐車場をみてみる
まずSentinel-2でどのように見えるか確認してみましょう。
Sentinel-2は、Sentinel-2Aと2Bから構成される光学衛星でEO Browserでデータを確認することができます。
画像がこちらです。赤丸箇所が先のGoogle Mapで見ていた駐車場です。
少しズームアウトしてみます。
解像度はSentinel-2よりGoogle Mapの方が良いですね。
前述の通りGoogle Mapはいつ撮影されたか分からないので「この日この時間帯をみたい!」という目的には適していません。
一方、Sentinel-2は撮影頻度が5日に1度程度です。解像度は多少悪くても撮影日時や頻度を優先するならSentinel-2の方が適しています。
※Sentinel-2に限らず光学衛星と言われる人工衛星は、雲など気象条件によって対象が見えなくなる場合もあるため留意しておく必要があります。
3. EO BrowserのSentinel-1でセントレア空港の駐車場をみてみる
Sentinel-1はSAR衛星と呼ばれ、電波を能動的に発射して地上から跳ね返ってきた電波を衛星で観測します。
Sentinel-1(VH) でどのように見えるか確認したいと思います。
こちらです。赤丸箇所が駐車場になります。
セントレア空港の全体像はなんとなくわかりますが、駐車場の確認は難しそうです。
SAR衛星はSentinel-2の光学衛星のように雲がかって撮影できないことがなく、曇っていようが雨だろうが夜でも昼でもしっかり撮影できることがメリットの一つです。
このように天候によらないことの他に、人工物が見つけやすいこと、同じ条件で撮影できる特徴から、SARは石油タンク監視、船舶監視、地盤沈下、森林伐採監視など様々に役立てられています。
詳しくはこちらの宙畑の記事を参照ください。
4. Sentinel-1によるSAR画像解析
Sentinel-1によるSAR画像解析がどのように実施できるのかやってみたいと思います。
その前にSentinel-1の午前と午後の画像を見比べてみます。
左側が日本時間で午後6時頃のSAR画像、右側が午前6時頃のSAR画像になります。
同じSentinel-1のSAR画像でも明るさなどが微妙に異なっています。
では、画像解析をおこなっていきたいと思います。
画像赤丸から駐車場エリアのポリゴンを作成すると、ポリゴンで囲んだ範囲のSARの信号の強さの平均値を時系列でグラフ化することができます。
解析は下記画像の赤丸をクリックすると解析が始まります。
※Open Street MapからSAR画像に戻します。
解析すると、下記のグラフが出てきました。
横軸は時間軸で縦軸は強度になります。1ヶ月〜5カ年まで色々な期間で簡単に解析することができますので試してみてはいかがでしょうか。
上記の画像ですが、およそ2021年12月あたりで値が変わっていますね。
①〜⑥を順に見てみると下記のようになります。Sentinel-1はUTC表示となります。(JST日本標準時: UTC+0900)
①:2021/9/12, 8:49:41 (UTC)
②:2021/9/30, 20:52:10 (UTC)
③:2021/10/18, 8:49:42 (UTC)
④:2021/11/5, 20:52:10 (UTC)
⑤:2021/11/23, 8:49:41 (UTC)
⑥:2021/12/23, 20:52:10 (UTC)
日本時間で午後6時頃にー20dBの値、午前6時頃にー10dBくらいの値が出ています。午前6時の方が値が大きく(人工物がある)、車が多いことが推測できます。なぜでしょうか!?
恐らく空港は朝の出発便が比較的多く、保安検査場を早めに通過するために搭乗者が早朝から空港にいるから!?かもしれません。
話は戻りますが2021年12月以降に午後6時頃の値が出なくなっています。
実は、Sentinel-1には1号機(1A)と2号機(1B)があります。Sentinel-1Aは日本時間で午前6時頃、Sentinel-1Bは午後6時頃を撮影していました。つまりSentinel-1Aが上記でいう②④⑥を撮影し、Sentinel-1Bが①③⑤を撮影していたということです。
しかしながら、1B号機は2021年12月にアンテナ異常で観測不能になってしまいました。修理するより新しく打ち上げた方が良いと判断され、今はミッションを終えています。
現在は宇宙遊泳をしているところでしょうか。
関連記事はこちらの宙畑の参照ください
グラフをさらに細かく解析したい場合は、解析データの下画像で示す”Export CSV”ボタンがありCSV出力できます。
まとめ
いかがでしたか?
5 m程度のサイズの放置自動車かどうか判別は、分解能が10 m程度のSentinel-1やSentinel-2で確認することは難しいかもしれません。
手順1でGoogle Map を記載していますが、航空写真の解像度はかなり良く車も確認することができています。例えば、SkySatという有料の衛星データなど、1 mよりも良い分解能の画像であれば、直接的に車を確認できます。SkySatはサンプルデータも公開されているので、どのように見えるのか気になる方はGoogleアカウントを登録の上で以下のGoogle Earth Engineを参照ください。
なお、冒頭でSentinelでは分解能の観点から確認が難しいと言いましたが、海外ではSentinel-1のデータを利用した自動車モニタリングに挑戦したレポートもありますのでご参照ください。
https://www.sentinel-hub.com/docs/covid19/Samuel_Barrett-Sentinel1_based_Car_Park_Monitoring.pdf
近い将来人工衛星の機能がさらに向上していけば、例えば毎日撮影できる解像度の高い人工衛星を打ち上げ、それが誰でも利用可能となれば個人レベルでも放置自動車を特定できるかもしれません。
人工衛星とプログラミングに関心があって、衛星データの分析をもっと学びたい方はこちらの本を参照ください。
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