光学衛星で山林の病害虫被害を診断する
2022年7月にスタートした豊橋市とのコラボレーション企画の続編!
豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。
マガジンはこちら。
最近奄美大島に上陸したカイガラムシ
九州南部や沖縄の南国らしさを代表するソテツの木。ここ数年本州ではナラ枯れの被害が続いていますが、九州以南では、外来種のカイガラムシが日本に渡りソテツに寄生し始めていることが問題になっています。
2022年10月に初めてソテツの被害が確認されて以来、奄美大島でソテツが枯れる被害が広がっているのです。今回は衛星画像を使ってソテツ被害、カイガラムシの分布がわかるか試してみます。
あまみカメラチャンネル. “安木屋場の朝 - 奄美大島 龍郷町(ドローン空撮 4K).” YouTube. Jan 2020.
Google Maps Street View で現場の確認
現地の様子を最初に把握することで、後の衛星画像の解析がしやすくなります。
奄美大島には安木屋場というソテツの群落があります。実際にGoogle Mapsのストリートビューで見ると確かに尾根沿いにソテツが生えてそうです。
実際に画像を拡大してみると確かに枯れている葉を確認することはできます。ただ、ソテツは常緑樹なので季節に関係なく古い葉を落とし新しい葉へ入れ替えながら成長していきます。そのため、撮影日の2023年12月の時期に一部の葉が枯れていること自体は普通だと思います。
実際に鹿児島県による奄美市名瀬地区のソテツ被害の報告の写真を見ると、植物全体が枯れていることがわかります。安木屋場はより北方なので、カイガラムシがまだ辿り着いていないのかもしれません。
衛星画像でみてみる
EO Browserを立ち上げ、観測したい場所、衛星画像を最初に設定します。
この群落が衛星からどうみえるのかEO Browserを使って確認してみたいと思います。今回は光学衛星のSentinel-2を選択し、群落の住所を検索します。
無料の光学衛星データではなかなか1本1本の木の状態までは把握できなさそうです。
ただし、Sentinel-2の最大解像度は10mとソテツの2-3mの横幅をゆうに越してしまうため、一つ一つの木々の状態を確認することまではできません。
そこで、植物の状態を見るのにより適したNDVI、False Colorを使い、群値の変化を測ることで、人の目には見えなくても衛星画像であれば枯れ具合を観測できるか確認してみます。
NDVIは健康な植物が近赤外線を反射し、赤の波長をよく吸収する特徴を使って-1(枯れている)から1(元気)の反射率を計測します。EO Browserでは等高線も表示できるので、ソテツが群生していた道沿いの尾根を青色線のポリゴンで囲み、過去5年間のデータをとってみます。この際に雲量を0にすることで雲の反射によるノイズを下げることができます。
また、画面中央の白く出ている領域は道路に面しており、Google Mapsと照らしてみたところ人家が並んでおり、植生度が低く写っている様です。
カイガラムシ被害が初めて報告された2022年10月以前と以降で、グラフの縦軸のNDVIの値が極端に変化していることはないのでこの群落にはまだカイガラムシの被害が及んでいないのかもしれません。
False Colorでも観測することで、NDVIで見落としているかもしれない変化を捉えてみます。
もう1つ、植物の活性状態を確認するのに有効な波長の組み合わせとしてFalse Colorがあります。近赤外線、可視光の赤、緑を組み合わせることで元気な葉を赤、枯れている葉を紫・ピンク色で表します。
この状態で尾根をもう一度選択したのですが、上手くデータを撮ることができませんでした。NDVIの反射率とは違って、3色素のデータなので上手くグラフできないのかもしれません。
False Colorでも2022年10月前後で変化が無さそうです。
そこで、紫色の群落が出てくるか視覚的に探してみようと遡ってみましたが2022年秋前後であまり違いはありませんでした。2023年12月に撮影されたGoogle MapsのStreet Viewでは群落が元気そうだったので、この地域にはまだカイガラムシは広まっていないのかもしれません。ただカイガラムシがソテツに寄生すると葉の裏に吸い付き、全体を白い殻で覆うそうなので、現地で直接植物の状態を見るのが一番確実だと思います。
まとめ
この記事では奄美大島で広がるソテツのカイガラムシ被害を衛星画像を使って診断してみました。今回試した安木屋場というソテツの群落では被害はない可能性が高そうです。Sentinel-2の画像だけでは解像度が荒く、どこにソテツが自生しているかはわからないのでGoogle MapsのStreet Viewで場所を特定する作業が必要でした。ただ最近は、ASNARO-1でも分解能1 m以下の画像が無償公開され、有償であればWorldView-3とかPlanet社の衛星、Albedo社が10cm分解能を目指しており、衛星データを使った地上把握がよりしやすくなってきています。
〜soranomeからのお知らせ〜
「わたしたちの日常を、宇宙ビジネスで豊かにする。」をビジョンに掲げ、様々な専門性を持つ多様な人財コミュニティをベースに、様々な宇宙ビジネスの加速支援を行っています。
現在エンジニア等を随時募集中です!
https://soranome.com/