ミニョン
トマ 「ミニョン」 第一幕より
台本バルビエ&カレ
パリオペラ=コミック座 1866年初演
「君よ知るや南の風」
堀内敬三 訳詞
君よ知るや 南の国
木々は実り 花は咲ける
風はのどけく 鳥は歌い
時をわかず 胡蝶舞い舞う
光満ちて 恵みあふれ
春は尽きず 空は青き
ああ 恋しき国へ
逃れ帰る よすがもなし
わが懐かしの故郷
希望満てる国
心憧るる わが故郷
ご存知ですか、オレンジの花咲く国を。果物が黄金に実り、薔薇が紅に咲き、微風はもっと優しく、小鳥はもっと軽やかに、蜜蜂は一年中蜜を集めて飛ぶところ。とこしえの春が、神様の御恵みのようにどこまでも青い空の下で光微笑むところ。ああ悲しい運命で追われたあの幸せの国へ貴方と一緒に行けないかしら。彼方でこそ、彼方でこそ私は生きていたいの。愛し、愛して死にたいの。彼方でこそ私は死にたいの、彼方こそ、ああ、彼方こそ。
ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」(1796)を自由に脚色したオペラ作品です。ヴィルヘルムが同情するサーカス一座の歌姫ミニョンは孤児。彼女が歌う「君よ知るや南の風」は彼女の微かな記憶と、いつも憧れている南の国への想いが込められています。サーカスでムチで打たれているのを見たヴィルヘルムはお金を払ってミニョンを救い出します。不思議な遍歴の果てに、失われた過去は回復されていきます。
このオペラ作品は当初は原作に忠実でした。ヴィルヘルムが遍歴の途上に出会う、薄幸の少女ミニョンが突然死んでしまう・・・。ところが、そのせいで最初の公演は不評でした。オペラ・コミックはハッピーエンドで幕が下りるという伝統があり、観客もそれを望んだからです。以降、台本に手直しが施され、最後はミニョンとヴィルヘルムが結ばれるバージョンが作成されました。このオペラの終結部はハッピーエンドに改めた長短二通りの版(フランス語版)と、主としてドイツ向けにタイトルロールの死で終わるようにした版(ドイツ語版)が用意されています。普通はフランス語版が上演されます。