韓非子 (二十五巻五十五編)
🖌韓非
【矛盾】楚の人に武器を売る者があった。盾を褒める時には、これを突き通すことの出来る物はないと言い、矛を褒めるときには、如何なる物もこれで突き通してしまう、と言う。そこである人が言った。・・・・その矛をもってその盾を突いてみたらどうかね、と。その商人は答えることが出来なかった。
📎聖人の徳は姦悪な人民を感化せしめる、と儒者は言う。それが本当なら、そのときの天子の立場はどうなるか。聖人を褒めるには天子を否定しなければならない。両方とも同時に肯定することは不可能であるとして、韓非は、矛と盾を売る者の話を持ち出したのである。
📎人間は利欲に走り、賞を喜び、罰を憎む。したがって道徳は規制力がなく、賞罰によってのみ人間は動かされるというのが韓非の人間観であった。韓非は人間愛を政治の根本原理とした儒教を、比喩を使い強く批判したのである。
📖韓非の著作を読んで感服した始皇帝は、韓非を仕官させたが、先に仕えていた者の讒言(ざんげん)を聞き入れ韓非を自殺させてしまう。
📎韓非の学は刑名法術と言われ、今日の政治法律の学に近い。ただ、信賞必罰を厳守した結果、残忍非情に陥った点が多く見受けられる。