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日記:アマプラ「力の指輪」が楽しくなる。トールキンの手紙から見るハルブランドとヌーメノール:「シルマリルの物語」より

トールキンの「シルマリルの物語」。
指輪の世界の創生神話から語られる1冊で、ファンなら必読です。

「力の指輪」を視聴しながらポツポツと再読しているのですが、物語の前に掲載されたトールキンの手紙がとても面白くて、ついついじっくり読んでしまう。

というのも、この手紙に書かれているトールキンの願いの多くに、アマプラの「力の指輪」はちゃんと応えているように思えるのです。「力の指輪」を見た後に読むと、さらに面白いのでご紹介。

トールキンの手紙は、以前にもこちらのnoteで紹介しました。

今回は、また別の箇所から、主に(ほぼ)サウロン確定のハルブランドやヌーメノールを彷彿とさせる箇所を抜粋。

ヌーメノール人のエルフへの敵意と、ハルブランドの支配願望


まずはヌーメノール人によるエルフへの敵意や、ハルブランドが抱く支配への衝動について。
ちょっと長いけど、ぜひ太文字だけでも読んでみてください。

※以下、本文中の引用は全て1951年、ミルトン・ウォルドマン宛、J・R・Rトールキンの手紙より

まずは「指輪」の物語全体のテーマについて語られます。

<中略>わが拙作たるこれらの伝説群は、主として堕落と、有限の命、そして仕掛け(マシン)に関わっているのです。

次に、テーマについて説明する中でヌーメノールの堕落を彷彿とさせる内容が語られます。

堕落というのは避けがたいモチーフであり、形を変えて幾度か出てきます。有限の命について言えば、これはとりわけ、芸術、そして創造願望(むしろ準創造への願望と言ったらいいでしょうか)に作用するもので、その願望には生物学的目的は全くないように見えます<中略>ところが、この創造願望は、同時に、現実の一次世界への熱烈な愛に結びついてしまいます。そこから有限の命という意識を抱き、そのことに不満を覚えるのです

そして以下の内容。創造願望が執着心となり、「神」になることを望むくだりは、鍛治師でもあったハルブランドの心理につながります。最後の一文はヌーメノールの堕落につながる内容ですね。

創造願望は、所有欲となり、自分の造った物への執着心となるのです。準創造者は私的創造物の主人、そして神となることを望み、やがては万物の主たる創造主の法に反旗を翻すでしょうーとりわけ有限の命という法に。

さらに手紙は、そこから権力欲が生まれ、その欲が形になったものとして「仕掛け」を用いると語ります。

生来の内なる能力や才能を伸ばす代わりに、外なる計画や仕組み(装置)を動員すること、場合によっては、その生来の能力をさえ、支配のための腐敗した動機で用いること、…

所有者を支配するのがサウロンの作った指輪ですから、ここに語られる「仕掛け」は、まさに指輪の呪われた力を彷彿とさせます。
そして確かに、ハルブランドは仕掛け(指輪)づくりに夢中になったのでした。

第二紀のサウロンのあらまし記述と「力の指輪」のハルブランド


先に引用した段落は、次の文章で締めくくられます。この辺りは、アマプラの「力の指輪」第1シーズンの最終話のハルブランドにそのまま投影できますね。

しかし問題は、この恐るべき悪が、一見善い根と思われるもの、世のため人のためになりたいという願望から生じることがあり、事実生じてもいることーそして、それは速やかにその者自身の計画に沿ったものになることなのです。

また追っての段落では、第2紀のサウロンのあらましについてこう記述されています。

サウロンは恐れ入って前非を悔いますが、結局、命ぜられたように、西方に戻って神々の審判を受けることはせず、ぐずぐずと中つ国に留まります。そして、初めは、 “神々に顧みられない”中つ国の廃墟の立て直しと修復という立派な動機から、やがて徐々に、彼は再び悪の化身たる完全なる権力の渇望者となりー(とりわけ神々とエルフに対して)ーいよいよ激しい憎悪に身を焦がすようになります。

うーん、なるほど。。。
この手紙を読んで「力の指輪」を思い起こすと、これをこう料理したかーと感慨深いものがあります。(もちろんAmazonの「力の指輪」はこの本「シルマリルの物語」の権利は獲得していないので、表向きは準拠資料とは言えませんが。)

以上、トールキンの手紙からの抜粋でした。
トールキン自身が描いた「指輪物語」「ホビットの冒険」はもちろんですが、「力の指輪」もやはり同じ世界の文脈の中で生きていると感じられないでしょうか??

引用の最終文にはサウロンが「いよいよ激しい憎悪に身を焦がす」とあります。
第1シーズンでは基本的に低体温だったハルブランドを初め、あのキャラクターたちがどんな風に動くのだろうと、「力の指輪」第2シーズンがとても楽しみだなーと。

ベランダで読書しながら思ったのでした。

今日はそんなお話。おやすみなさい。

(日記:2022年11月6日)


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