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日記:時空を超えたか細いロングパス:イエスという男(田川健三)第四章(1)預言者の墓を建てる者

朧げにイメージしていた「キリスト教のイエス」よりずいぶん魅力的。「イエスという男」に会ってみたくなる、田川さんの「イエスという男」。まだ読み終わっていないのですが、どの章も面白いなか、このエピソードは本の根本に関わる1つに思えたのでnote。預言者の墓を建てる者について。

かつて預言者を迫害したのはあんたらみたいな連中

禍あれ、律法学者どもよ。お前らは昔の預言者の墓を建立しているけれども、それはお前らの先祖が殺した預言者ではないか。先祖たちが殺した預言者の墓をお前らが建てる、というそのことによってまさに、お前らは先祖の預言者殺しに同意しているのだ。
(ルカ一一・四七ー四八=マタイ二三・二九以下、Q資料)

イエスという男 逆説的反抗者の生と死/田川健三/第四章(1)預言者の墓を立てる者

このキリスト教のエピソードを、田川さんは節の終わりに、イエス自身の言葉を模して以下のように解いています。

「死人を葬ることは死人にまかせろ」(マタイ八・二二)とイエスは言った。<中略>何も預言者の墓を飾り立てることはない。そうやって過去の預言者を絶対的権威に仕立て上げ、実はあんたらは自分自身にその絶対的権威の後光をかぶせたいんだろ。よしなよ。かつて預言者を迫害したのはあんたらみたいな連中だったんだぜ。

イエスという男 逆説的反抗者の生と死/田川健三/第四章(1)預言者の墓を立てる者
P158 ※太字はakimo

この文章を、田川さんは「第四章(1)予言者の墓を立てる者」の結びとしています。「今の世界で言えば、例えばあのことだな」と、同じような事例をいくつも想起することができる普遍的な内容であり、これ自体十分興味深い。


こんなに遠くまで人の言葉は


ただし私がちょっと途中経過noteを書きたくなったのは別の理由です。この節の中で、田川さんがこの本で伝えようとする「イエスという男」への認識を、このイエスの言葉から得たと語っている、それに「おお!」と思ったのですよね。以下、ちょっと長いけどまた引用です。

イエスの論理によれば、彼らは預言者の墓を立てる、まさにそのことによって預言者殺しに加担していることになる、というのだ。<中略>どうして、預言者の墓を建てる、まさにそのことによって預言者殺しに加担したことになるのか。これはイエス自身がその死後にこうむった運命をたどってみれば明らかだろう。キリスト教は、十字架を美しげな装飾として飾り、麗々しく祭壇の上に「聖書」を金ぱくをつけて並べておくことによって、まさにイエスを殺した勢力に加担しているのである。そのことは本書の最初の所に記した。いや、イエスについてのこういう認識をそもそも私はイエス自身のこの言葉から得たのである。

イエスという男 逆説的反抗者の生と死/田川健三/第四章(1)預言者の墓を立てる者P156 ※太字はakimo

イエスの生き様がその死後、いかにさまざまな体制的思惑によって歪められ、飾られたか、田川さんはさまざまな角度からこの本で述べています。それでもなお、歪められた言葉の一片が田川さんの心に届いた、ということは、なかなか心動かされるものがあります。

もちろん田川さんの解釈について私は評価できる立場にあらず、田川さんの指摘する、誰かの意図が様々な思惑によって歪められ飾られるその所業は、無意識なものも含めれば、田川さん自身も例外ではない、避けることはできない現象だと思います。それは大前提とした上で、田川さんがイエスの言葉からヒントを得たという。イエスの言葉が辿った長い長い時空を考えると、恐ろしくか細いロングパスであり、こんなに遠くまで人の言葉は届くんだと、噛みしめたくなったわけです。

東大教授の安冨歩さんが最近の一月万冊で、学者は自分の死後にいかに言葉が届くかということを考えているというようなことを言っていましたが(朧げなので、私の解釈が入っています、正確でなくてすみません)、そういうたくさんの人たちが届けたいと願った言葉(もちろん言葉以外の形もあります)のパスが私たちの周りにはいっぱいあるはずで、私はそのことを改めて思い起こして「途方もないことだなあ」と感じたという、そういうことのnoteでした。

本日の一月万冊で安冨さんが別の文脈ですがユダヤ教の預言者の話をしていたので、ちょっと思い出したのもnoteの理由。

(雑記)
コーヒーに豆乳を入れた、いつもの私の嗜好品ソイラテに、これまた週一くらいで嗜むウィスキーを合わせたら、もっと早くやっていればよかったと思いました、下手するとお休みの日は一日中ほろ酔いになる。というかほろ酔えるものならばほろ酔いたいのですよね。ほろ酔うとは薄目で世の中を眺めること。「ホロ酔う」とカタカナにした方がいい感じだ。

(日記:2022年6月3日)


紹介した本のリンク

※上に紹介したのは私が購入した1980年版ですが、2004年に増補改訂されたそうで、そちらもリンクしておきますね。


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