籠の瑠璃
希望が空から降りてきた。
希望は、部室でこっそり飼っている鳥だ。
瑠璃色の体毛が綺麗なコンゴウインコで、人懐っこくて頭もいいが、とにかく鳴き声が大きい。
鳴き声が原因で最初の飼い主からたらい回しにされ、引き取り手が見つからず、行き着く先が軽音部の部室だった。
当初はストレスのせいか毛引きが目立っていたけれど、今では十分に綺麗な毛並みに整っている。
希望は、部長がつけた名前だ。
「どことなく似ているから「希望」にしよう」、と僕と同じ名前を鳥につけた。
部長は、面白がって名付けてはいたものの、希望のことはいつも可愛がっていた。勢いで行動する人だけれど、真面目で優しい人であることに変わりはなかった。
部長が部室に来なくなった。
部活がない日やテスト期間中は希望の世話をするために部室に来ていたくらいなのに。ここ最近は、めっきり姿を見ていない。
理由は部員の誰も知らない。家族とあまり仲がよくなかったという曖昧な噂や薬の禁断症状で引きこもっているなんて揶揄しか聞こえてこなかった。
たったひとつだけ見つけられた情報は、希望の飼育ノートに小さく書かれてあったどこかの住所。部長の薄い筆圧で丸みを帯びて書かれた文字を見た瞬間、自分が見つけられて良かったと心から思った。
次の日、僕は希望を逃がした。
僕は、ノートに書かれた住所へ向かった。
たどり着いた一戸建ての住宅、表札には部長と同じ名前が書かれてある。
扉に近づくと閑静な住宅地には不釣り合いな怒声が聞こえてきて、あの人が部室に来なかった原因が察せられた。
鍵のかかった扉から一度引いて、遠目から見える無防備に空いた2階のベランダに視線を注ぐ。
僕は、まだ部室で預かる前のゲージの中にいる希望を思い出していた。
使用ワード:「禁断症状」「軽音部」「コンゴウインコ」
もしサポート投げてくれたらなんかいい感じのことに使います。