マンションは本当に狭小化しているのか?
こんにちは そらまめです。
マンション市況を追うようになって気づいたのは、通説は大抵間違えている または 次第に時代に合わなくなっていく ということです。
新築マンションは部屋の面積を削って狭小3LDKばかりになっている と度々話題になりますが、本当か?と思い調べてみました。
専有面積の内訳
よく見るグラフはこちら。こういうグラフはいつも日経さん。
このグラフは不動産経済研究所のデータを引用しているものです。
たしかに「首都圏新築マンション」の「平均」専有面積は徐々に狭くなっています。
(まるで60㎡半ばの部屋が普通であるかのように見えてきます)
では「首都圏新築マンション」と「平均」は何で構成されているのでしょうか?
不動産経済研究所のレポートは毎月確認していますが、ある時コンパクトマンションの供給シェアのデータが公表されました。https://www.fudousankeizai.co.jp/share/mansion/584/mdn20240409.pdf
これを見たときにふと、
「投資用じゃないコンパクトマンションってこんなにあったんだ」と思いました。
(新築マンションのカウントに含まれないものは投資用、定借、賃貸、非分譲住戸、店舗、事務所です。例えばFJネクストのガーラシリーズなどはカウントされません)
レポートの内容を見てみるとコンパクトマンションの供給シェアが年々増加していることがわかります。
前回の記事で言及した通り新築マンション市場は単価UPによって市場規模をなんとか維持している状態ですから、戸数は減っていくばかりです。
そこに追い打ちをかける形で、コンパクトマンションの供給が増えたら平均に与える影響は年々大きくなっていきます。
(コンパクトマンションの供給は2014年から2倍以上になっている)
コンパクトマンションの供給シェアを先ほどの日経グラフに重ねてみると次のようになります。
狭くなる平均専有面積に対して、上昇を続けるコンパクトマンションシェア。きれいに反比例しています。
コンパクトマンションを除いた場合の平均専有面積を出してみると次のようになりました。
2023年時点では全体の平均が66㎡程度に対して、コンパクトを除いた平均は70㎡前後で推移しています。
10年前より若干狭くなっているものの最初の印象とはだいぶ変わります。
「首都圏新築マンション」の中にコンパクトマンションが含まれていて、そのシェアが拡大することで、「平均」を押し下げている結果となりました。
3LDKの面積をゴリゴリ削っているのとは少し話が違うようです。
ということは、コンパクトマンション以外の「普通マンションのコンパクト住戸」もシェアが拡大しているのでは、というのが思い浮かびます。
(体感として郊外のファミリー立地のファミリーマンションにも1LDK/2LDKの設定が増えている)
厳密には3LDKだけの平均面積を出したいところですが、残念ながらそのようなデータは公開されていませんでしたので、次に間取り別の内訳を見てみました。
月別の「新築分譲マンション市場動向」には間取り(タイプ別)の供給戸数が公表されています。
これを10年分追っていくと次のような推移になりました。
このデータには先ほどのコンパクトマンションも含まれているため、1LDK以下のコンパクト住戸は先ほどのシェア率と近しい値になっています。
グラフ上の変化がわかりにくいため、月次から年次にまとめて
1LDK+2LDKをコンパクト、
3LDK+4LDKをファミリー向け
として分類し推移を見ていきます。
(一般的には2LDK以上をファミリー向けと表現することが多いですが今回は便宜上分けました)
2014年頃は3LDK以上のファミリー向けが84%ありましたが、2023年になると70%を下回り、コンパクト住戸の比率が高まっていることがわかります。
昔は「分譲マンション=ファミリー向けに企画された商品」であったが、現代では「シングル、DINKS向けも意識した商品」に変わっているようです。
2LDKだけの比率で見ても増加していますから、1LDKがメインのコンパクトマンションだけでなく、3LDKメインの「普通マンションのコンパクト住戸」もシェアが拡大している結果となりました。
間取り別の比率を2014年と2023年で比較してみると次のようになります。
それぞれの間取りにおける面積が変わっていないと仮定した場合でも、シェアが変わるだけで「平均専有面積」は5㎡弱狭くなります。
冒頭に示した日経グラフは 71㎡ → 66㎡(△5㎡)の変化を「狭くなっている」と表現しているわけですから、シェアの変化だけでほとんど説明できることになります。
ただ、ひとつ考慮しなければならないのは、2020年以降は晴海フラッグ、SKYDUO、三田ガーデンヒルズの影響が大きいことです。物件自体の平均専有面積が広いことに加えて暴力的な戸数のため、平均に与える影響は無視できません。
これらの供給を除外すると平均2~3㎡狭くなっている可能性はあると思います。
トレンドが変化すれば「平均」が小さくなるのは当たり前の話ですが、先ほど言った通り10年前は
「分譲マンション=ファミリー向けに企画された商品」だったわけです。(コンパクト住戸がかなり少ない)
これが検討者の共通認識になっている中で「専有面積が小さくなっている」と言えば普通は 3LDKの面積が削られているのだ。と思ってもおかしくありません。
実際は(気づかないくらいゆっくりと)企画が変化していて「1LDK、2LDKの間取りが増えている、3LDKの面積は変わっていない。」としても気づかれないということになります。
この認識のズレを利用した検討者への訴求の仕方として
「うちのマンションは専有面積が70㎡以上!」というものです。
以下のようにHPでアピールするマンションは結構多いです。
デベロッパーはもちろんわかっていて掲載しているわけですから、かなりミスリードを誘っていると言えます。
日経のグラフもそうですが、2013年で切り取っているところもかなり恣意的です。
マンションの公式HPには以下のような希少性を謳うグラフが示されることが多いですが、これらも同様でかなり恣意的なものが多いです。(面積よりこちらの方がわかりやすいですが)
いずれにしてもマンションを探し始めたばかりの検討者は、これらのグラフを鵜呑みにして物件評価を過剰に評価しないように気を付けたいところです。
狭小3LDKについて
「じゃあ最近よくある狭小3LDKは何なのか?」という話は、
価格で訴求するマイナーデベは「昔からずっとそう」なので既に平均に織り込まれている。ことが考えられます。
オプレジ、プレシス、イニシア、レーベン、などなどのブランドです。
さすがに全部の間取りを把握できていませんが、メジャーデベでも60㎡台前半/3LDKの間取りは10年前から存在しています。
なんならメジャーデベも「ずっとそう」なのかもしれません。
50㎡台3LDKも見かけますが、全体から見れば供給量が多くないので、平均を押し下げるほど「影響力がない」可能性が高いです。
また、これも前回の記事で触れましたが、そもそもマイナーデベ全体の供給量が減っているので、今後はより一層平均への影響力落ちてくることが考えられます。
逆にメジャーデベが供給する大規模マンションにおけるコンパクト住戸の多さや、メジャーデベが供給する コンパクト寄りのマンション(よく都市型マンションと表現される物件)が増えると平均への影響が大きくなっていきます。
面積の移り変わり
昔(20年前)は80㎡~100㎡台の3LDKがもっとあった。それと比較したら狭くなっている。
という話については「それはそう」だし、
昔(40~50年前)は50㎡台の団地間取りが多かった。それと比較したら広くなっている。
のも「それはそう」ということです。
以下は2015年まで公表されていた100㎡以上の供給戸数で、10年前の時点で既に激減していることがわかります。
以下は1973年と2022年の専有面積の比較で、50年前比では広くなっていることがわかります。
日経グラフは10年前を切り出しているため、面積の変化よりもシェア率の変化の方が影響が多かったものの、比較する時代によって狭くも広くもなります。
グラフが出てきたら、切り取られたデータの範囲は恣意的であることを疑って見たほうがよさそうです。
余談①
コンパクトマンションのシェアは23区よりも郊外の方が増加しています。郊外=都下+3県(神奈川・埼玉・千葉)
シェアが元々1%未満だったものが10~15%超まで拡大しています。
一方23区は元々一定数コンパクトマンションがあったためそこまで顕著な推移にはなっていません。
加えて、2024年の都下+3県の新築分譲マンション供給戸数は過去最少を更新しているため、この状況でコンパクトマンション比率が高まる=ファミリー向け住戸は「相当に減っている」ことになります。
郊外でファミリー向け新築マンションを買うことは都心とは別の意味で難しくなっていますね。
余談②
2024年9月に公表された住宅・土地統計調査のデータを見ると、実際に独身世帯の持ち家数が急増していることがわかります。
DINKS、ファミリー世帯の持ち家数はほとんど変化が無いですが、独身世帯は前回調査時点(2018年)からの5年間で10万世帯増えています。
単独世帯の持ち家数 ※総務省統計局調査では「単独世帯」と表現される
2018年:571,000世帯
2023年:672,000世帯
親族のみの世帯の持ち主数 ※総務省統計局調査ではファミリー、DINKS、親との同居など含む世帯を「親族のみの世帯」と表現される
2018年:138,6600世帯
2023年:135,2300世帯
今後の人口推計においても1世帯あたりの人数は少なくなる傾向が続きますから、デベロッパーはこれを意識してファミリー向けよりも単身・DINKS向けの住戸を(継続して)増やしていくと思われます。
先ほどの間取り別比率で4LDKが減っていることがわかりましたが、マンション全体における絶対数で言えば「広い部屋はかなり希少」なものの、前述の通り広い面積が必要な世帯の絶対数も減少していきますから、需要と供給の綱引きは絶妙なバランスになるかもしれません。
一方、都心を中心とするごく一部の富裕層向け住戸は、実需層のように「世帯構成から逆算して広い面積が必要」なわけでなく「広い面積がほしい」から買うという世界(と思われるため)世帯人数の縮小がどこまで影響するか読みにくいです。
足元では新築マンションにおける都心比率が高まっており、富裕層向けの企画が増えてますから、バブル期のような100㎡以上をメインにしたマンションが増えてきそうですね。
それはそうとマイナーデベの中では高級路線の企画が多いモリモトはかなり生き残っている印象があります。
今回はこの辺で。それではまた。