車いすママの日常 5(笑顔という美)
突然ですが、わたくし、自分の容姿に自信はありません。
特に顔ね。骨形成不全症は上顎と下顎の成長速度が異なるケースが多いとのこと、反対咬合という、下顎が前に出てくるいわゆる「受け口」になりやすいそうです。
ええ、私も例に漏れず、それなのです。
この顎のこと、昔はかなり気にしました。
「え、おまえ、上から見ると顎が一番出てるのなー!」
と笑った教師や、
「前から見るとかわいいのになぁ、横から見ると大変なことになってるよな」
と笑った教師のことは忘れません。ええ、◯◯先生と◯◯先生、一生覚えていますよ(←根に持つタイプ)。
この病気は骨が柔らかいため、矯正をしても戻ってしまうこともあるとか。どうして矯正してくれなかったの!と親を恨んだこともありましたが、なるほど大金をかけても無理なケースもある、と。それならば仕方ない、私はもうこの顔で生きていくしかないのか…。
そんなふうに悲観していたある時「ああ人間って見た目じゃないな」と思う出来事がありました。
骨折して入院していた病棟に、電動車いすのお姉さんがいました。
お姉さんは気管切開をしていて、夜は人工呼吸器を使用していました。気管切開をしているせいでこそこそ話のように掠れた声で少し話すことはできましたが、大きな声で笑うことはできませんでした。
何の障害だったのかは私には分かりませんが、体の変形も強く、顔の表情筋にもおそらく病気があったと思われ、目は見開いたままでまばたきもできず、一見すると怖い顔に見えるお姉さんでした。
だけどこのお姉さん、とっても面白いの。掠れた声でたくさん面白い話をしてくれて、私の話をたくさん聞いてくれて、いつも、いつも、いつも笑っている。障害は重いのに、病気大変そうなのに、いつもとっても明るくて、笑っていて、なんだかこのお姉さんと話していると私はいつも元気になれました。だから私は、すぐにこのお姉さんのことが大好きになりました。
そして、最初は失礼ながらそのお顔が怖いとまで感じていたのに、毎日毎日接しているうちにだんだんとお姉さんのお顔がとてもかわいく見えてきたのです。
このお姉さんのことを思い出す時、今でも私は笑顔しか思い出せません。でも正確には、お姉さんは「笑顔」を作れないのです。表情筋がうまく動かなかったから。でも、思い出すのは、笑顔。
きっとつらいことも悲しいことも山ほどあったに違いない。だけど、そんなところは全く見せず、いつも周囲を明るくして、笑っていた、そんなイメージしか残っていない。
私はこのお姉さんと知り合ってから、ああ人間は、見た目じゃないよ、と思ったのです。
人に好かれるのは顔ではなく、心だな、と気づきました。表情筋がうまく動かなくて笑えなくても、いつも笑っているその気持ちは人にちゃんと伝わります。明るい思いは間違いなく伝わります。人と比べてマイナスなことを口にするのではなくて、自分自身の足元に実はたくさん転がっている楽しいことをいっぱい見つけて、それを大事にしていく、そうすれば知らずに笑顔が多い毎日になるのかもしれない、そう思ったのです。
いつも笑っていよう。いつも、どんな時も、笑っていよう。「あの人、そんなに楽しいことばかりじゃないだろうに、つらいこともあるだろうに、でもいつも笑ってるよね」と言われる人になろう。笑っていることが一番美しい。と高校生の私は朧げに思いました。
それからはこの顎さえも私の一部として(いや、もともと一部なのだけど)、隠すことはせずに何を言われても堂々と、思いっきりの笑顔で過ごしていこうと努力してきました。
いまだにこの顎のことをいじられるとムッとしてしまうこともありますが、それでも私は自分の顔が好きです。私と出会った人の中に、私の笑顔が一番印象に残るといいなと思って日々を過ごしています。笑おう。笑っていれば福が来る。そう信じています。
続く。
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