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【短編小説】SNS
インスタを開く。
私しかいない真っ暗な部屋の中、自分の顔が暗闇の中で不気味に照らされているのを分かっていながら、それでも起き上がる億劫さには適わない。
横になったまま、ベッドの上で画面を眺める。
毎日このくらいの時間に由梨がリールを投稿している。
上部の左側に出た、目だけがうつるように、顔を手で覆っているアイコン。
その丸い画像を指でタップすると、重なった手が表示される。
体格差のある二人が、手をつないでいる写真。
右下に「楽しかった~」という字と、小さなGIFアニメが現れる。
私はこのリールが、数時間たてば消えてしまう刹那的な画像が、スマホをたたき割りそうなほど嫌いだった。
力の入った指に気づかないふりをしたまま、繋がれている手を眺める。
羨望も嫉妬も焦りも、きっととても醜いものなんだろう。
でもそれを、少し気持ちがいいと思う自分もいる。
たぶんこれは、リスカと一緒なんだ。
苦しいと、生きてるって感じがする。
だから、それなら、このままでいいような気がする。
それに、こいつらはどうせ別れる。
由梨はなんども誰かと別れたり、くっついたりを繰り返している。
別れた瞬間の、死体のように暗い由梨をいたぶるように慰める私は、ネクロフィリアだ。
力なく、付き合っている間、女を使い果たした由梨が、私は結局、大好きなのだった。
その静謐さが、私はたまらなくいとおしかった。
由梨がその瞬間だけ、海を漂って流れ着いてきた死体のようにやってきて、やっぱり女の子のほうが気持ちいい、と、私の気持ちも知らずに、くっついてくる時の、あの感じ。
それからほどなくして、どうせまた、私から離れていくのは知っている。
それでも私は、何度でも由梨を待つ。
意識を現実に戻す。
インスタの画面を、下にスワイプしていく。
暗闇の中で、光に集まる蛾みたいに、音も出さずに静かにスマホを眺めた。
おわり