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【短編小説】ころす


「なにそれー」


太陽に照らされた入道雲がそびえたつ朝、ざわついた教室についた瞬間、昨日ガチャポンで取った、通学カバンにひっつけていたお気に入りのキーホルダーを指差された。

「かわいいでしょ」

私がそういうと、れ、の続きのまま、さゆ子が眉をひそめて、内緒話をするみたいにくっと近寄ってきた。にやにや。

「全然かわいくなーい」

その言葉に、会話に参加していなかったはずの、周りにいた数人が振り返ってきた。こちらを見ていないフリをして、キーホルダーを横目でみたそうにしている。気がついたさゆ子が聞こえるように、

「へんなのお」

私は、心から可愛いと思って買ったキーホルダーだった。歪な丸い造形に、猫の顔がプリントされている。その表情が愛おしい、と思ったのだった。

「ねー、これ変じゃない?」

さゆ子の声は通る。どんな人よりも可憐で残酷な色を周りに振りまいていく。かざされたキーホルダーは、もう私にとって、守ることのできない存在になってしまった。

そうかなあ。そうかも。そんなふうに曖昧に口を動かしてみると、さゆ子がさすがにウケ狙いで持ってるんだよねえ、とこちらに笑顔を向けていた。

うまく笑えたかどうか分からない。でもこれだけははっきり分かる。

ありのままで生きられない。そこに即効性の苦しみはなくて、じわじわと、気がついたら闇のまっただなかにいるような霧が身体を蝕んでいる。いつもそうだ。

ころしたい。と思う。だれのことを指しているのか自分でも分からないまま、私はなぜか、ずっと上手く笑えていますようにと、本心はもういいからと、シールを剥がすときのように願った。どうか、きれいに。跡形もなく。
はがした「本心」のシールをどうしよう。もうきっと、捨てるしかないんだろうなあと考えていると、さゆ子が私の二の腕を抱きしめて、愛されたことしかない顔で笑っていた。


おわり

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