2番目の恋
数か月に一度仕事の関係で出張がある。普段は地方で働いているので、なかなか公共交通機関に乗る機会にめぐまれない。営業職だから仕方ないのだけれど…。だから、都会への出張は、私にとってちょっと新鮮なのだ。営業車を運転している時とは違い、バスや電車の車窓から普段みれない景色をゆっくり眺めることも楽しみの一つになったから。そして、その移動中に聞く音楽は、radikoでその地域で流れている番組を聞くこと。それも出張先での楽しみの一つになった。
地域によって、パーソナリティや番組構成が同じように感じていた時もあったけれど、実際には地域によって結構違っていたことがわかって、新鮮に感じる。その土地に住んでいる人にしかわからない情報を聞くことで、携わっている仕事のアイデアになることもあるし、取引先のお客様とのコミュニケーションに役立つこともあるのは助かった。それと… もしかしたら、ラジオが大好きだった〝アイツ〟がどこかのラジオ局にメッセージを出してないかな?って思ったりもするから(笑)。〝アイツ〟だったら、どんなRN(ラジオネーム)にしてるんだろう…。っていうか、高校時代のRNってなんだったっけ? その当時、好きだったけれど『友だちのまま』にしておいた〝アイツ〟のことを久しぶりに思い出した。
<私の脳内回想シーン>ーーー
( はぁー! やっと席替えだー! 今月こそ、念願の窓側の後ろから2番目の席になりますように…。神さま!お願いします。アーメン。〝ウチの宗派は仏教なんだけど〟(笑))
私が高校生の頃、月一席替えがあった。その席替えの方法はくじ引き。私のお気に入りの場所は窓側の一番後ろの席で、おそらくクラスほとんどの人がその席を狙っていたような気もする。みんなはどうかわからないけれど、クラス全体が見渡せるとか、その当時の推しが出演しているテレビやラジオ番組を夜中まで見たり、聞いたりして寝不足な時、授業が退屈すぎてうっかり寝てしまっていても先生に気がつかれなさそうとか…(笑) そんなこと改まってみんなに聞いたことがなかったからわからないんだけど…。 私にとって、その席がよかった理由は、大好きな〝空〟がみえたから。 これまでにも、一度だけその席が当たったことがあって、ものすごーく幸せな1ヶ月を過ごしたことがあったからだ。しかも梅雨前の5月くらいだったから、窓を開けるとそよ風と共に何かの甘い花の香がしてきたり…。小雨が降ったら虹がみれたり…。そんなこと経験しちゃったら、またその席がいいって思うのは、空好きの人だったらわかってもらえるように思う。うん。
そんな私の願いが神様に届いたのかどうかはわからないけれど、窓側の席の後ろから2番目だった。(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)それとその〝願い〟が叶っただけじゃなく、クラスで気になっていた〝アイツ〟が私の後ろの席というオマケもついてた。 (神さま! ワタシ良い子じゃないけれど、なんだか〝願い〟を叶えてくれてくださって、しかもおまけつき! ありがとうございます! 学校の帰りに神社にお参りしなくちゃだ(笑)
<回想シーン終わり>ーーー
車窓からみえる街並みをぼんやり眺めながらラジオを聞いていると、その当時ヘビロテで聴いていた懐かしい曲が流れて、そんなことを思い出した。と同時に
(それにしても〝アイツ〟元気にしてるのかな?)
ふとそんな思いで胸がいっぱいになった。
高校卒業後、私も〝アイツ〟もお互いに学生生活や仕事が忙しく、なかなか会うことができなかった。今日の日みたいに何かのきっかけで、何度も〝アイツ〟のことを思い出したことはあるけれど、連絡さえとればいつでも会えるから…なんて思って、あまり深く考えたりしたこともなかったし、あえてワザワザ連絡をとることもなかった。 それに〝アイツ〟は私よりも更にめんどくさがりだったしなぁ…(苦笑)
卒業後は数年に一度は同窓会があってたし、実家へ帰省することは何度もあったけれど、お互いの帰省のタイミングが合わず、あれから、ずっと会えずじまいでいた。いつ頃からか、久しぶりに会って話してみたい。そんな気持ちが沸々と浮かんできても、自然と打ち消すようになった。その時は、もうすでに特定の彼氏がいたからだ。『久しぶりに会いたい』気持ちはあっても、無理やり帰省の時期を合わせるなんてこともせずいた。
ただ、そんな風に先延ばしにしていたら、早いもので私も30歳をとうに越え、中年といわれる年齢に差し掛かってしまった。 とりたてて結婚とかに興味はなく、いつか誰かと出会って結婚する事態に見舞われれば、年齢は特段関係ないとは思っていたものの、仲のよかった友だちがどんどん結婚をし、子どもが生まれて…。最近まで独身仲間だった藍子も、来月、結婚することが決まった。だからなのか、さすがに鈍感の私でもこれにはショックをうけてしまったようで、とうとう仲良しグループ内の独女は私一人になってしまったからなのか、焦る気持ちが芽生え始めたようだ。
私だって、今まで男性と付き合ったことはなかったわけじゃない。もう少しで結婚するかも…というところまでいったこともあった。ただ、結婚が決まりかける前に、見ず知らずのかわいこちゃんに彼氏をかっさらわれてしまった。 一応、3年くらいは付き合った人だったし、結婚も考えた人だったからこそ、それなりの喪失感に押しつぶされそうになっていたのを仕事で打ち消したりもした。 新しい彼ができれば、喪失感や夜中に突然訪れる寂しさも埋まるだろう…なんて思い、苦手な合コンにも参加してはみたけれど、そういう時に限ってなかなか上手くいかなかった。
幸い仕事が忙しくなりすぎて、新しい彼を作る時間もなく出会うチャンスはあれど、元カレ以上に心が動く人はいなかった。 だからこそ、高校時代に『好き』だったけれどいえずに終わってしまった〝アイツ〟とのことを思い出すのかもしれない。
いい歳になって、何故今更、何もかもが青かった高校生時代の恋を思い出し、ワザワザあの頃の淡い恋心をひっぱりだそうとしているのか、自分でも少々不可解でならない。ただ、そうなってしまうのは少なからずも理由はある。
高校生になって、2つ年上の先輩を好きになったのだけれど、先輩に彼女がいることがわかり、私にとっての〝初恋〟ってやつは虚しくもすぐに終わってしまった。 〝アイツ〟とは高校入学時代からずっと同じクラスだったこともあり、何度か席が近くになることもあったし、共通の友だちがいたから、特に仲が良かったわけではなかったけれど、なぜか話があうし居心地がよかった。まだ入学間もない頃、何がきっかけになったのか、私の初恋となった先輩への熱い想いを〝アイツ〟に話したことがあって、そういった女子の恋バナに全く興味なさそうなのに、黙って聞いてくれたり、時々鼻で笑われ冷たくあしらわれたり…。〝アイツ〟にだって、当時同じクラスに好きな子がいて私はその女の子と仲がよかったこともあって、同級生以上恋人未満みたいな友だち関係になっていた。
そういった始まりだったからか、私自身、いつの間にか〝好きに〟なっていることに気がつけなかった。 その時、自分の気持ちを伝えることで、ハッキリさせることができただろうけど、〝友だちのまま〟でいたほうが居心地がいい気がして、曖昧なままにした。その時にきちんと一度、気持ちに整理をつけておけば、今更燻ることもなく、何かのきっかけで、呼び覚まされることはなかったのかもしれない。
仲の良かったグループの子たちの中でも、私と〝アイツ〟はカップル扱いされていたようだったけれど、それでも、当の本人たちには全くそんな気はなく、ただただ気が合うだけだった。(あっも、もしかして、私が鈍感だったからいろんなことに気がついてなかっただけ???)それでも、私の中ではいつの頃からか〝2番目の恋〟になっていた。
仲良しグループのみんなにとって、両想いにみえた私たちを不憫に思ったのか、高校最後の夏休みに皆で一緒にお祭りに行くことになった。その日、花火が上がる前までは皆で一緒に遊んでいたけど、いつの間にか私たちは皆とはぐれ、2人きりになってしまった。というか、皆が気をきかせてそうしむけたらしい。社会人になってから数年経った時、一番仲よしの藍子が教えてくれた。
二人で夜空いっぱに広がる打ち上げ花火をみながら、他愛もないことを話し、帰り道は自宅近くまで送ってもらうだけで終わった。友だち皆で作戦をたてせっかく二人きりにしてくれたのにも関わらず、2人とも鈍感だったからなのか、私だけが気がつかなかっただけなのか…。そういうことは何度かチャンスはあったものの、互いの気持ちを確かめることもせず、何も聞けないまま〝好き〟の境界線を越えることができなかった。そして、虚しくも高校生活最後の夏は虚しくも終わってしまったのだった。
もし、あの時、私が少しだけ勇気を出して、自分の本当の気持ちを伝えられていたなら、喧嘩したり、くっついたり、離れたりしながらも、今の歳まで、ずっと付き合っていられたのかな? 私たち…。
完
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