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【小説集】

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自作の小説をまとめています。おやすみ前のひと時に読んでもらえたら嬉しいです。
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#思い出の曲

【小説】 もうひとりのロストマン

*作者註:この物語は、以下の小説の①から④(終話)を読んだあとに紐解かれることをお勧め致します。  『夢屋書房』店主・渡辺誠一は読んでいた本をパタリと閉じると、左腕の時計に目を落とした。あの青年が店を出てからきっかり三十分。誠一はカウンターから出るとそのまま店の出入り口へと向かい、引き戸を開けた。  顔を外へ出してから、左右を見渡す。  相変わらずの、閑散とした駅前商店街の錆びた色彩が広がるだけ。まだ夕暮れ時には二、三時間はあると言うのに、誠一はいそいそと店じまいを始めた。

【小説】 ロストマン 終話

 前回はこちらから 「──で?そっからどーなったわけよ」  問われて我に返った康介は、投げつけられた声をたどって視線を泳がせた。つり目がちな女の目が康介に向けられていた。  ほんのりと頬を桜色に染めた川嶋瑞穂が、ビールの入ったコップを握りながら焼き鳥の串を口に運んでいる。  康介は少し慌てて記憶を呼び戻そうと頭を働かせた。久しぶりのアルコールにだいぶあてられているようでうまく繋がらない。 「しっかりしろー。いとしのトモミンにフラれて意気消沈の皆川クンでしたが、なんだか雰囲