【小説】 もうひとりのロストマン
*作者註:この物語は、以下の小説の①から④(終話)を読んだあとに紐解かれることをお勧め致します。
『夢屋書房』店主・渡辺誠一は読んでいた本をパタリと閉じると、左腕の時計に目を落とした。あの青年が店を出てからきっかり三十分。誠一はカウンターから出るとそのまま店の出入り口へと向かい、引き戸を開けた。
顔を外へ出してから、左右を見渡す。
相変わらずの、閑散とした駅前商店街の錆びた色彩が広がるだけ。まだ夕暮れ時には二、三時間はあると言うのに、誠一はいそいそと店じまいを始めた。