杖はないけどペンはある
私は魔法少女の夢を見ることはできたが、手にできなかった子どもだ。
カードと杖を手にすることができず、タロットにときめきを覚えた。
魔法の力がこもった宝石の代わりは祖父母の家の砂利石の一等透明なものやとっておきのキラキラの折り紙を巻いた石だった。
あの子の家には日曜朝の魔法少女達のステッキがあった。私も同じものを持っていたが、それはお菓子売り場のおまけのもので、あの子のよりも小さく、シールの巻かれたそれはさらにチープさを際立たせた。
けれど今は違う。
私の杖は0.5のSARASAブルーブラック。
最低月に一度、それで作品を紡ぐ。
書きたいことが溢れることもあれば、砂漠の時もある。最近は砂漠が多い。
月に一度の自己証明。
「書かねば死ぬ」とこめかみに脅しをかけることもしばしば。
何かになりたいと、
この幻想を形にしたいと、
どこにも行けないからこの白紙だけはどこへでもいけるようにとペンを振る。
魔法が使えなくなる日が明日かもしれないと怯えながら、
やめたっていい、何者にもならなくてもいいじゃないかと甘えを横に置きながら、私はペンを動かす。
原稿用紙より前に自分に魔法をかけて、今日も言葉と不安定な世界へと足を踏み入れ、夢を見る。
散文です。
とうとうあと○年で30ですが、書くことはなにがあっても成し遂げたと思えず、書くことを諦めたくないと追いすがる毎日。
(執筆者 すいか)