自己憐憫 = 降ってきた掃除機

自己憐憫をぎゅっと固めてどうだどうだと投げつける。
長兄を表現するとしたらこんな感じだ。

父や他人など、絶対優位ではない相手には投げることのない感情の固まり。

私はずっと、たくさんの『かわいそうな俺』を投げつけられてきた。

きっかけはない。私は煽らない。
いつも一方的で、そして突然に。
思い立ったら言わずにはおれない。

嫌になるほど母親と似ている。

子供の頃はもっと短絡的だった。
短絡的。気に入らなければ手が出るという意味だ。

実家では、弟のくせに、妹のくせに、がまかり通るため長兄は大きな顔をしていた。
弟妹に横柄な態度と意地悪な言葉を投げることにまるで疑問を持たない。
しかし相手にも感情はあり、時に喧嘩となる。
子供の時分の年の差というのは体力の差でもあり、喧嘩になれば長兄には敵わなかった。

これはどこの家庭にもありがちな兄弟喧嘩の風景。

・・・他人を率先して打つ人間は打たれ弱い

長兄は自分の攻撃は喜々としても、反撃には脆い。
その時、長兄の取る行動は暴力へと変わる。

反撃が一言でも刺さると表情が変わる。
それが自分がした攻撃の十分の一だったとしても。

私が小学生、長兄が中学生の頃のある喧嘩で反撃が刺さった。
刺さったのは「この短足!」という言葉だ。

事実、長兄は足が短い。
事実ゆえに刺さったのだろう。

ニヤニヤしている顔はみるみる変わり、怒りに満ちた顔で殴りかかってきた。
慌てて逃げる。
2階で喧嘩をしていたので階下へと急いだ。

階段を駆け下りる私の背後に気配を感じた瞬間、上から掃除機が降ってきた。

私めがけ長兄が掃除機を思いきり投げ落とした。

中二階の踊り場のおかげで直撃こそしなかったが、掃除機は勢いそのまま階下へ大きな音を立てながら転がり落ちた。

恐怖の中、全力で母親がいる部屋へ逃げる。
母の後ろに泣き隠れる私と追ってきた長兄。

そこで母が言った。

「あんたが妹のくせに生意気な態度とるからよ!」

顎を上げ上から睨みつけ、その通りだと言わんばかりの態度の長兄。
母は長兄を叱責せず、長兄も謝らなかった。

私はこの件で長兄に向って短足という言葉を口にしてはいけないと学んだ。

当時の掃除機は今よりも大型だ。
もし直撃していたら。
掃除機と一緒に階下までころげ落ちていたら。

それでも私が生意気だと母は言い、長兄は当然だとふんぞり返ったのだろうか。

怪我が無かったのだからもういいじゃない。
そんなふうに言われるくらいなら、私は怪我をして相応の罪を長兄に負って欲しい。

上から落ちてきた掃除機を必死に避けた自分が悔しい。

時代が今なら暴行罪だろうか。



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