記憶の始まり

人はいつ頃からの記憶を有するのだろう。
私が覚えている一番古い記憶は2歳の頃。
まだ幼稚園に入る前、家族という単位が私の世界の全てだった頃の話。

私の頭の中に残るそれは、母親とのもの。

母に連れられ公園の砂場で一人遊ぶ私。
そこから見える少し離れたベンチに座っている母。
隣には知らない女性が座っており二人はおしゃべりに夢中だった。
一人でする砂遊びは楽しくなく、ただ母のおしゃべりの邪魔をしないよう私はそれらしく砂をいじっていた。

そこに一人の男性が近づく。
しゃがんでいる私の背後に沿い、同じくしゃがむ。
そして、、、変質者だった。

当時の私には何なのか理解できず、だけど漠然とした恐怖と不安から本能的に母に助けを求めた。

声は出ない。必死に母を見る。おしゃべりに夢中の母。

まだ声は出ない。
怖い。
怖い。

母が私の方を見た。

助かった!
心の底から思った次の瞬間。

母は笑顔で手を振り、そして隣の女性との会話に戻った。

恐怖で声も出せない私の顔は、母にはどんな風に見えていたのだろう。

コノヒトハ ワタシヲ ミテイナイ
コノヒトハ ワタシヲ マモッテクレナイ

母親という存在をそう認識したのはこの時で、それは私の人生に於いて以降その通りだった。

その砂場から私は渾身の勇気を振り絞り、立ち上がり母の元へ駆けていった。

「あらあらどうしたの。困った子ね。」と隣の女性に向かって言う母。

私はただ口を噤んでいた。

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