パワーハラスメント ・ 方位学
方角を用いて吉凶を占う『方位学』。
上に立つ、または立とうとする人間は四柱推命や九星気学、方違えや風水、そういうものに指針を求める傾向が強い。
『経営者は孤独』
よく言い表されることからもそういう類の人が人生の岐路や判断を迫られた時、背中を押してくれるのは近くにいる人間ではなく占いなのだろう。
私の父も同じだ。
何かの時には『先生』に占ってもらい方針を決めてきた。
子供の私にとっては大人の話という認識で気にも留めなかったけれど、唯一気に留まったのは祖母が一人暮らしをした時。
その年は祖母の方位が悪いという理由で悪い時期を抜けるまで方角の良いとされるマンションで独り暮らしをしていた。
祖母がどう思っていたかは知らない。
父は親孝行の体でとても誇らしげだった。
母はいつものように私にだけ言った。
「馬鹿じゃないの。わざわざマンションまで借りて、言い出したらしゃんむり言って聞きなさらんとやけん。おばあちゃまも母親のくせに情けないわよね。自分の息子に何にも言いきりなさらんとやけん。」
そうして祖母はマンションに移り、母は家から車でそれなりにかかる離れた場所まで毎日食事を届けていた。
してやった!してやった!誰があれだけしてやったと思ってるの!
母が何度も何度も忌々しそうに、恩着せがましそうに、独り言ちていたのを覚えている。
一度だけ祖母のマンションへ行った。
小綺麗な小さな部屋に祖母はいた。
いつものようににこにこする祖母と置かれている空間を見て、なんとなく見てはいけない状況を目の当たりにしたような、変な気持ちになったのを覚えている。
その後私はマンションにいる祖母に会いに行かなかった。
父の方位学が私に関わってくることはなく存在も忘れていたのだけれど、私が結婚する時にそれは目の前に表れた。
人生の大事はこういうものに沿ってしっかり決めるべきだ!と。
父が強いたのは入籍する日、式を挙げる日、新婚旅行の方角と時期、新居の方角と引っ越す日、そしてそれぞれの時間帯。
二十四方位に事細かく分けられ選択肢は非常に狭い。
私達の通勤問題、希望、金銭的問題、全てが父にとって『大した問題ではない』と一蹴され、父の『おやごころ』が最優先されるべき体で進んだ。
私は親が子供の結婚で気になるのは『相手がどういう人間か』という部分だと思っていた。
「相手の名前と生年月日を書け。後は要らん。」
父が私の結婚相手について言ってきたのはこれだけだ。
そして『先生』に占ってもらい満足げに言った。
「お前たちはえらい相性のよかごたんもん。先生もよかち言いなさるけん、よかたい!」と。
結婚する前、した後。
父は私の夫の事を詳しく聞きたがることも、夫と二人で話をすることも無かった。
もっと言えば、最後まで他人行儀な世間話程度しかしなかった。
母親に至ってはいわずもがな。
『おやごころ』とはなんだろう。
父の独りよがりな『おやごころ』は結婚前後の私達に影響を与える。
私達は父の『おやごころ』を汲むため、行動的にも金銭的にも自力を費やし消耗した。
うんざり気な夫をとりなすため、自分を納得させるため、私は何度も言う。
「父は私達の事を思って言ってくれてるんだから・・・」
夫の母は苦笑いで言う。
「・・・なんだか大変やね。」
今思えば夫も夫の母もそれ以上何も言わずにいてくれたことは救いだった。
この家に居ては潰れてしまう。
そう思い自分を立て直すため家から離れ一人で生きてきたけれど一瞬で元に戻ってしまった。
結局親に逆らえない私はコントロールされっぱなしだ。
この頃から社会に適応するため必死に振り払ってきたはずの不具合が私の多くを占めだした。
負のスパイラルに呑まれるのは、努力と対極でとてもあっけない。
泣かずに生きてきたのに、自分の不甲斐なさに涙が出るようになった。