"初"って1回きりらしい
良い年した成人男性4人が、真夜中から夜が更けるまで、馬鹿みたいに騒ぎながらゲームをする姿を、画面越しから見るのがいつのまにか習慣になっていた。
画面越しにゲームをする彼らは本当にキラキラとしていて、声しか聞こえないのに、楽しそうに笑顔を浮かべる姿も、難しいと顔をしかめる姿も、面白いことが起きて爆笑している姿も、ガッチさぁん!!と呆れた顔した姿も、容易に想像できた。
ただそれは単なる想像で、実際どんな姿でゲームしてるのかなんて知る由もなかった。
そんな私の前に、ゲームをしている4人の姿を直接見れる機会が訪れた。
チケットが当たった時は本当に嬉しかった。手が震えた。彼らがゲームする姿を目の前で見ることができるんだと胸が躍った。
私にとって、2023年6月1日という日は一生忘れることのできない日になると確信していた。
行けると決まった日からイベント当日までの約3ヶ月間。
本当に4人のために色々と頑張っていた。
初めて髪も染めて、ネイルも変えて、バイトも頑張って、初めてオタ垢を作って、初めて座席予想してみたり、友達のためにドームまでの行き方まとめてみたり、買うグッズの予算計算してみたり。
もう残すはあと1日というところまできた。
それは、2023年5月31日 午前3時過ぎのことだった。
全身を包み込む熱さで目が覚めた。息をするたびに体が熱くなる感覚がした。布団を剥いでも体は熱くて、なのになぜか寒気がする。
「あ、もうドームには行けないかもしれない」
そう感覚的に思った。
2時間近く寝れないまま、熱と頭痛に頭を抱えながら過ごした。
それはまるで地獄だった。
ずっと頭の中で「なんで今日なの」「なんで1日が終わってからじゃないの」「何か私悪いことしたっけ」とぐるぐる色んな思いが駆け巡っていく。
そんなことに思い悩んだところで熱は下がらないし、頭は痛いし、足も歩くたびに震えるほどだった。
前日物販の長蛇の列をTwitter越しに眺めながら、私は病院に向かった。なんとなく、嫌な予感はしていた。だからか、
その字を見ても何も驚きはしなかった。
ただその字を見た瞬間に、視界に映る何もかもが意味をもたないものに見えた。街路樹も信号機も車も何もかも、全くなんでもないものに見えた。大袈裟だと言われるかもしれないけど、本当にそのくらいに見えた。
突然ドームに行くことのできなくなった失った私は、あまりの絶望感に泣いた。唇が切れるほど強く噛みながら泣いた。
できることなら、誰かのせいにしたかった。でも、誰のせいにもできなかった。ただただ自分のことを責めるしかなかった。
ぽつんとドームに空くことになってしまった、私と同行してくれる予定だった幼馴染の、2つの席。彼らに空席を見せたくなくてすぐリセールに回したけど、"チケットを返却"というボタンを押すのが本当に嫌だった。できることなら押したくなかった。最後まで、粘りたかった。最後まで、「行きたい」という気持ちでいっぱいだった。
できるだけみんなの前では明るくいようと、気を使わせないようにしようと、Twitterでは前向きなツイートをした。
本当は何度も「悔しい」「行きたかった」「見たかった」「同じ空気吸いたかった」とツイートしようかと思った。
でもどうしようもない事実ときちんと向き合うと、自然とツイートしようとしていたネガティブな言葉は消えていた。というより、消さざるを得なかった。
私にできることは、彼らが無事にイベントを終えられるように祈ることだけだったのが、ものすごくもどかしかったけど、でも、祈ることが本当に、私にできる最大限のことだった。
初めて4人がドームに立つ姿を目に焼き付けた5万分の1にはなれなかったし、もう2度と彼らの"初"ドームを見ることはできない。
だけどきっと彼らなら、次はもっと凄い景色を見せてくれるのだろうと、そう信じている。
今まで見たことのない景色を私たちに見せてくれた4人なら、まだ新しい景色を見せてくれると、私は心から信じているから。