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【エッセイ】一歩踏み出すとき

エッセイ塾「ふみサロ」
課題本を基に800字のリブリオエッセイを書く

7月の課題本
「成功する複業」 後藤勇人 著

↓以下エッセイ↓

「一歩踏み出すとき」

昭和初期
まだ「家」というものが色濃い時代

「この家の長男として生まれたからには」

私の祖父はそう告げられ
家業の仕事一筋で
町の人に尽くして生きてきた

昔気質で神経質だった祖父は
近寄りがたい気難しい人だったという

しかし、私の記憶に残る祖父は
穏やかで、優しい人

祖父との記憶で1番に思い出すのは書斎だ

祖父の書斎はまるで要塞
まず目に入るのは聳え立つ本棚の列

並んでいる本は
背表紙のものもあれば
和綴じの本もあった

部屋の匂いは昔ながらの古本屋の匂いと
お日様の匂い

そのひだまりの要塞の奥で
祖父はいつも本を読んでいた

「よく来たね」
祖父は、いつも笑顔で迎え入れてくれる

私は我が物顔で祖父の腕の中に収まると
祖父は再び深い本の世界へと戻っていく

読んでいた本の文字は
漢字とカタカナだけだった

じいちゃんは難しい本を読むんだな
幼心にそう思っていた


ある日
祖父と町の印刷屋さんに行ったことがある

「これを〇〇部お願いします」
それだけを言って
店を後にした

「じいちゃん、何しに行ったの?」
「じいちゃんの書いた本を読みたいって人がいるから印刷して配るんだよ」

ふーん

このときの私は
ただ事実をそのまま受け取って
そして気にも留めることなく忘れていった


あのとき祖父はどんな顔をしていたのだろうか
ちゃんと見ておけば良かった
と、思う



祖父は子供の頃から
物書きになりたかったそうだ



私は小学校5年生のとき
初めて祖父の書いた本を読んだ
祖父の最初で最後の著書

短編の作品の間にエッセイもいくつかあって
そのページに「孫」というタイトルを見つけた


私は祖父が一歩を踏み出すのに
一役買えただろうか

祖父が現代に生きていたら
どうなっていたのだろうか

SNSを駆使すれば
たくさんの人に祖父の文章を
読んでもらえたかもしれない

家業と執筆活動の両立も
可能だったかもしれない

全てはタラレバだが
それほど現代は多様な働き方が許容されている

未来への歩み方は自分次第なのだ


「やってみたい」という気持ちに出会ったら
環境や時間にも消せやしない

どうか、そのときは
自分を信じてあげて欲しい


以上


制作の意図

著書を読んで

普段の生活のなかで自分が感じたものや
人との繋がりのなかには
複業への種がたくさんあるんだな
という印象でした

しかし、日常生活を送るだけでも精一杯なのに
新しいことを始めるときのエネルギーって
なんだろうと考えたとき

「今の自分を変えたい」という源は
いったいどこから来るんだろう
それを阻害してしまう原因とはなんだろう
そこから着想を得て書きました

そして読んだ人が少しでも
「やってみたい」という気持ちになってもらえたらいいな
という思いで書きました


不安点はタイトルです
最後まで決まりませんでした(涙)


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