歩行困難な痙直型脳性麻痺患者のための特殊シーティングによる脊柱側弯症の管理-生体力学的研究

画像1

今回の文献は、歩行困難な痙直型四肢麻痺患者を対象に側弯症に適した側方パッドの配置を検討した研究となります

1.はじめに

脊柱側弯症とは?
▶︎脊椎の側方弯曲と椎骨の回転を特徴とし、しばしば矢状面の変形を伴う疾患
▶︎時間とともに弯曲の程度が大きくなる進行性の疾患
▶︎二次的な健康障害を引き起こす可能性がある
体位による痛み、換気障害、褥瘡、機能喪失の原因となると考えられている(Wilkins and Gibson, 1976; Lonstein and Akbarnia, 1983; Hsu, 1990)

臨床的な観察によると、弯曲の大きさが大きいほど、それに関連する健康上および機能上の困難が大きいことが示唆されています!


今回の研究では、痙直型脳性麻痺の患者を対象としています

ちなみに痙直型脳性麻痺患者の側弯症有病率の報告は…
▶︎約68%(Madigan and Wallace, 1981)
▶︎痙直型四肢麻痺では75%(Saito et al, 1998)
半数以上に側弯症を認めています
側弯症の管理方法は?
▶︎外科的手法:侵襲的であり健康上の問題から適応外な場合あり
▶︎非外科的手法:体幹装具やシーティング等による管理

今回は非外科的手法に分類されるシーティングに関する研究です

モジュール式シーティングシステム(バックサポートと座面、骨盤と胸椎の側面サポートパッドで構成)の側方パッドに注目!

▶︎側方パッドの位置は、患者の要求に応じて調節可能
▶︎しかし、脊柱側弯症に最も適した側方パッドの設定方法を示す研究ベースのエビデンスが不足

本研究の目的は、側方パッドの最適な配置をカスタムメイドの評価用椅子を用いて決定することができるかどうかを調査することです。

2.方法

イギリスグラスゴーのSouthern General Hospitalの倫理委員会から倫理的承認を得て実施.対象者は、地元の学校の生徒

対象選択基準
▶︎被験者が歩行困難であること
▶︎車椅子内で特別なシーティングを必要とすること
▶︎側弯症があること
▶︎評価用椅子にフィットすること
▶︎快適性や幸福感に悪影響を与えることなく試験時間中椅子内に座っていられること
16名の痙直型四肢麻痺患者が参加
年齢:平均14.7歳(範囲6.5~20.8)
性別:男9名/女7名
平均体重:31kg(範囲14~60)

●評価用椅子

画像2

評価用椅子のベースには、Active Design Ltd* (Birmingham, UK) の CAPS I モジュール式シーティングシステムを使用

●プロトコル

▶︎マーキング
 棘突起上と後上腸骨棘(PSIS)に黒シール

▶︎側方パッドの配置(3種類)

画像3

構成(Config)1:骨盤部分のみをサポートすることを意図
構成(Config)2:骨盤パッド+1対の側面パッドを腋窩直下の体幹上部の両側に固定.この2つのパッドは同じ高さであり、上半身をサポートするためのもの
構成(Config)3:骨盤パッド+胸部パッド(1つは側弯の頂点の高さで凸側に、もう1つは反対側の凹側で腋窩直下に配置).この配置は、2つの平行な力が、2つの力の間で反対方向に働く1つの力によって対抗し、構造物を曲げるという標準的な工学的概念を採用していることから、「3点力:3-point force」システムと呼ばれる

▶︎試験内容
 側方パッドの位置のみを変更し3種類(構成1〜3)の脊柱弯曲の程度や座面・パッドに加わる力を比較

▶︎評価項目

・側方パッドと座面から伝わる力の測定(トランスデューサー)
・脊柱の形状
(椅子後方から撮影/10秒間隔で連続3回撮影し平均化)
・側方パッドの角度
(横断面で見た、パッドサポートバーと椅子の前後軸の成す角)

●データ解析方法

▶︎棘突起角:spinous process angle
被験者の背中のデジタル画像と、側弯の頂点の上下にある最大変形点の棘突起マーカーに線を引く方法.側弯変形を冠状面で表現するために臨床的に最もよく使われる測定値であるCobb角の近似値である.0度側弯なし、角度大きくなる程、変形が大きいことを示す

画像8

▶︎骨盤斜位
画像から水平と骨盤を通る線との角度として測定

棘突起角度と骨盤斜位が3つのシート形状で有意に異なるかどうかをペアのt検定で検証
記録された力は、冠状面に分解され、その後,代表的な力ベクトル(F1,F2,F3,F4) と棘突起角の測定値を被験者の背部の写真画像に重ね合わせた
各構成(1~3)について、16 名の被験者の力と角度を平均化し、 平均値を算出.また、補正量と年齢の間に相関があるかどうかを評価するために、構成2および3における個々の補正量の割合を被験者の年齢に対してプロット実施

3.結果

●棘突起角度の解析

▶︎すべての被験者で平均棘突起角が有意に小さくなった
(P値=0.000)(Table1).=脊柱の弯曲が軽減
▶︎被験者の年齢と、ベースラインの構成1に対して構成2、3で得ら 
   れた矯正率の間には明らかな相関は見られなかった(Fig.6).
 =年齢により改善率に差は認めなかった

●骨盤斜位

構成1~3における骨盤斜位の平均値は、ほぼ同じ値であった(Table 2).しかし、骨盤斜位に対するシート形状の影響は大きな個人差があり、棘突起角度の矯正により骨盤斜位が大きくなる被験者もいれば、小さくなる被験者もいることが確認された

画像5


画像5

Tables 1、2を参照すると、一般的に構成3では、骨盤傾斜を悪化させることなく側弯症の矯正効果を得ることができる結果に

●椅子支持部からの力の解析

画像7

▶︎一般に、胸部サポートを通してかかる力は、骨盤サポートを通してかかる力よりも大きく、シートベースを通してかかる力よりも小さかった(骨盤サポート<胸部サポート<座面)

▶︎各構成において側方パッドによって体幹に加わる力は、被験者間で大きなばらつきあり

▶︎側方パッドと座面からの力の平均(Fig. 5)

画像6

構成2:側弯の凹側の胸部サポートからの力(F1)は、側弯の凸側の胸部パッドからの力(F2)より平均して大きかった
(それぞれ平均値36Nと17N)
構成3:側弯の凹側(F1)と凸側の胸部パッドから与えられる力(F2)は、平均して同程度の大きさでした
(それぞれ平均値51Nと47N)

4.ディスカッション

▶︎シート形状が脊椎側弯に及ぼす影響

3-point forceを発生させる側方パッドの構成(構成3)は、2つの側方パッドを同じ高さに配置した構成(構成2)と比較して、脊柱弯曲の矯正が著しく向上することを明確に示している(ベースライン構成1に対する構成3の棘突起角度の平均矯正は+35%、構成2のそれは+18.6%であった)

なぜ?
構成2の場合、胴体は腋窩の高さで水平に保持されるが、カーブの頂点の動きに対するパッドの反発はない.そのため、この構成では、カーブの頂点のレベルにある背骨が、凸側の上下のパッドの間のスペースに倒れ込むことが観察された。凸側パッドを頂点の高さに設定した3-point forceのパッド構成は、この動きに直接的に対抗するため、構成2より棘突起角度の矯正効果が向上した
胸部サポートにかかる力の大きさ 
 構成3>構成2

左右の胸部サポート力の大きさ 
 構成3左右差ほぼ無し 構成2側弯凹側>凸側

なぜ?
構成3はしっかり矯正され、それを保持するために力が必要
構成2は矯正し切れておらず保持していた力が分散するため
左右差に関しては腋窩の高さの背骨は側弯の凹の方向に倒れやすい、被験者が垂直に座っていることから、凹側のパッドがより多くの荷重を受けたと予想される
パッド間の矯正力の配分は重要です。褥瘡や不快感が生じる前に、1つのパッドにかかる局所的な力は最大となります.パッド間の力をより均等に配分することで、不快感や組織の損傷が起こる前に、より大きな全体的な力を加えることができます
(構成3はパッドの力を分散→褥瘡リスク軽減に繋がる可能)

『3-point force system』

▶︎胸部サポートにかかる力の大きさ:50N前後、左右差目立たず 

▶︎座面から加わる力の平均は構成2から構成3へと減少
 構成2では6.4%減、構成3では合計で16.8%減となっている

力解析の結果、側方パッド力は、冠状面に分解すると、かなりの垂直成分を持つことがわかった.この垂直成分は、胴体を重力に対してある程度支持するため、座面で受ける力を低減させる.このことは、骨盤の下にできる褥瘡の可能性を減らすのに有益である可能性がある
この研究で被験者に作用した力の大きさは、Chase、Bader、Houghtonによる思春期特発性側弯症の矯正のための脊椎ジャケット(体幹装具?)の使用に関する研究(Chaseら、1998)と同程度である。彼らの結果では、平均58Nの装具力は平均37%の初期カーブ矯正と関連していた

●機器の長所と短所

長所:背もたれが透明な特注の評価用椅子と、棘突起の位置を特定するためのスキンシールの使用により、座ったままで被験者の側弯症の形状を調査する、シンプルで非常に効果的な方法を実現

短所:力の測定と棘突起角度の測定の両方に誤差があるため、脊柱側弯症の矯正における力システムのより高度な分析が困難。一つの力の測定における最大誤差は約+20%、一つの棘突起角の測定における最大誤差は約+25%と推定される。ただ、平均力と平均角度の比較は、これらの誤差の影響を受けにくいため、本研究で報告された比較は有効である。

●本研究の限界

 ▶︎少数の被験者グループに対し得られる側弯症の矯正に焦点を当てたもの
▶︎パッドの正確な位置に対して結果がどの程度敏感であるかということが不明
▶︎この研究では、上部のパッドを腋窩の下に配置する標準的な手順を使用した.しかし、この位置は必ずしも最適な位置ではない可能性がある
▶︎本研究では、側方パッド形状が脊柱側弯症にどのような3次元的影響を及ぼすかを調査することは不可能であった
▶︎年齢間での相関関係認めなかったが、コホートの均質に疑問がある
▶︎長期的効果が不明
▶︎衣服による矯正力の変化は考慮されていない

5.結論

本研究は、4つの調節可能な側方パッドを使用した特殊なシーティングを用いた側弯症の管理に焦点を当てたものである。側方パッドの3つの構成を比較し、本研究では、3-point force system(3点フォース構成)が脊柱側弯症の最良の矯正を与えること、また多くの場合、骨盤斜位の悪化なしにこれを得ることができることを示した。

いいなと思ったら応援しよう!