リクライニングチェア使用時の臀部動作にかかる力に及ぼす臀部圧の非対称性の影響

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1.はじめに

今回の論文は日本での研究になります.健常成人を対象に臀部にかかる剪断力を測定し、車椅子のリクライニング機能が非対称な臀部圧の臀部にかかる剪断力に及ぼす影響を明らかにするための実験を行った.

背景
車椅子は,自分の席を確保できない高齢者や障がい者が使用することが多い.また,車いすは療養中の人の介助を減らして快適に過ごす目的で使用されることが多いため,1日の中で車いすに座っている時間は非常に長い.そのため、長時間の座位を維持するための姿勢変換が障害者自身では不可能なあらゆる介助レベルを対象に、チルト機能やリクライニング機能を備えた車椅子が開発・製造されている.
しかし、リクライニング機能付きの車いすであっても、通常の車いすと同様に、適切な着座姿勢がとれていないと、リクライニング操作の繰り返しによるせん断力で臀部が前方に滑り出してしまう.
リクライニング車椅子使用時の骨盤後傾姿勢は、上半身と大腿部のせん断力を促進することが明らかになっていますが、骨盤の横傾斜によって臀部にかかるせん断力を報告した研究はこれまでほとんどない→今回の研究へ

2.方法

基本情報

対象者:健康な成人男性16名(平均年齢:25.0±6.7歳,身長:170.1±5.2cm,体重:60.2±5.4kg)が参加
非対称な臀部圧を再現:ウレタンクッション使用(密度:80±12kg/m3,硬さ:250±50N/橋本義肢製作所作成 岡山県)

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臀部の圧力に左右差があることを確認
使用機器:鳴き声分布測定器(住友理工株式会社,SRソフトビジョン,愛知県)
測定肢位:身体の背面がバックサポートに接する楽な座位で、座面クッションの左右の高さ差がそれぞれ0cmと2cmのときの座圧分布を測定(高低差はすべての被験者で左側が高くなるように設定)
測定数値:左右の臀部圧の最大値
下記表→2㎝のとき左臀部にかかる圧が優位に高いことが証明されている

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実験条件

「差がない条件」:0㎝ vs「差がある条件」:2㎝
二条件のリクライニング動作中に臀部にかかる剪断力を測定

測定使用物品:下記図
臀部にかかる剪断力の測定器:Vicair B.V., AX Wormer, The Netherlands

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測定方法:小原ら9)の方法を参考に,
実験用椅子の背もたれを,垂直から10°の直立姿勢(初期直立姿勢[IUP])

垂直から40°の完全リクライニング姿勢(FRP)

そして直立姿勢(RUP)へと角度を変えながら傾斜させた.

剪断力を測定した時間:IUP(5秒),FRP(10秒),RUP(5秒)
臀部にかかる剪断力は,IUP~RUPまでを測定
臀部にかかる剪断力の最大値も測定
解析方法:
①本研究では,各施行において上部の位置を統一するためにマーキング実施
マーキングの位置がずれている可能性があると考え、位置のズレによる影響を排除するために、IUPに対して正規化したRUPの変化率(%)を左右それぞれで算出
②臀部にかかる剪断力の測定値を比較した体重効果を補正するために,臀部剪断力測定器の生データをもとに,剪断力測定値を体重で正規化(体重%[%BW])Shapiro-Wilk検定で正規性を確認した結果臀部せん断力の変化率に正規性は認められなかった.そこで,Wilcoxonの符号順位検定を用いて,IUPに対して正規化した臀部運動変化率を「差がない条件」と「差がある条件」で比較した.p<0.05を統計的に有意とした
③すべての統計解析は、IBM SPSS Statistics ver. 24.0(IBM Co., Armonk, NY, USA)を用いて行った.

3.結果


①臀部にかかる剪断力の合計 table2
2つの条件の合計では、剪断力に有意な差はなし(p=0.756)

②臀部にかかる剪断力の測定値の左右に注目 table3
「差のある条件」では,左の臀部は147.4(115.1-164.1)%BW,右の臀部は105.6(74.5-161.4)%BWの値を示した
+左臀部は右臀部よりも有意に高い値(p=0.020)を示した

「差のない条件」では、左臀部120.3(110.2-155.8)%BWと右臀部119.5(103.9-148.6)%BWに有意な差はありませんでした(p=0.796)


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4.議論

今回の研究結果では、「差がない条件」と「差がある条件」では、臀部にかかるせん断力の測定値に有意な差はありませんでした.しかし、臀部にかかるせん断力の測定値の詳細な左右差に着目すると、左右差のある条件では臀部の圧力が有意に高くなりました.また、臀部の圧力が低いほど、せん断力の測定値も低くなっていました.

つまり、リクライニング車椅子を使用し、体幹を倒した後にバックサポートとウェイクアップというリクライニング動作を行うことで、左右のせん断力が臀部圧の高い側で大きくなり、臀部圧の低い側で小さくなることが明らかになりました.バックサポート傾斜時に臀部にかかるせん断力の変化については、体幹をバックサポートに乗せた直後(IUP)から座圧中心位置が前方に移動し始め、臀部にかかるせん断力が前方に発生しています.この荷重移動の際に臀部にかかるせん断力は,バックサポートを倒してRUPに戻すと急激に増大することが報告されている

本研究では,IUPから「差のない状態」と「差のある状態」の両方を発生させ,RUPで最大値を示すようにした.リクライニング車いすのバックサポートは、座位姿勢の支持基盤を大きくし、座位姿勢の安定性を高める13).また,主要部の臀部にかかる前方せん断力を発生させる要因にもなる.本研究では、「差動条件」の参加者全員において、左側が高くなるように設定した.その結果,リクライニングFRPからRUPへの復帰時に,臀部に加わる左せん断力の変化率が,臀部に加わる右せん断力の変化率よりも高くなるという左右差が生じたと考えられる.

小原らは、RUPではバックサポートからの反力で身体が前方に押し出され,臀部も前方に移動しようとするが,臀部と座面との間の静止摩擦力によって臀部の表面が変形するが,臀部は大きくは移動しないと述べている.その中で、臀部面圧が高い値を示した「差のある条件」の左側の臀部せん断力変化率は、バックサポートで前方に押し出されようとしたときに、臀部と座面の静止摩擦力の最大値以下の範囲で増加したと考えられます.この状態では、褥瘡や不快感、痛みなどのリスクが高まると推測されます.

また、臀部面圧が低い値を示していた差のある条件の右側のせん断力変化率は、有意に低い値を示しました.これは、右側の臀部面圧が左側に比べて低く、垂直方向の力も小さいため、最大静止摩擦力が左側に比べて小さくなっているためです.さらに、移動摩擦力が変化し、臀部剪断力も臀部と座面の最大静止摩擦力よりも大きい範囲になることで低下すると考えられる.このように、左右の背筋せん断力が異なり、一方では前方への滑り出しが抑制され、他方では前方への滑り出しが促されるような左右非対称性が、着座姿勢を大きく崩す原因となると考えられます.

本研究の結果から、座位での臀部圧の左右差は、臀部変化率にかかるせん断力を増減させ、その非対称性が褥瘡のリスク増加や姿勢の崩れを促進することが示唆された.褥瘡は、生物学的要因(臀部の感覚、皮膚の循環状態など)が複雑に影響して発生します.さらに、外的要因(座面の摩擦、衣服の厚さ、座っている時間など)が加わります.臀部変化率にかかる剪断力も外的要因の一つであり、臀部変化率にかかる剪断力の左右差や骨盤の左右差の拡大は、褥瘡発生のリスクを高めたり、長時間の不安定な座位姿勢を引き起こし、車いす利用者のQOLや日常生活動作の低下につながる可能性があります.したがって、リクライニング車椅子利用者が楽に生活できるように、臀部表面圧の測定だけでなく、臀部表面のせん断力にも注意を払う必要があると考えられる.

本研究の結果から、健常成人が非対称な臀部圧で座位姿勢を維持すると、リクライニング車椅子使用時の臀部せん断力に左右差が生じることが示唆されました.この臀部せん断力の左右差は、座位姿勢の左右非対称性を促し、座位姿勢が崩れてしまう要因になると考えられます.自力で座位姿勢を保持できない高齢者や障がい者の場合、非対称な臀部圧や臀部せん断力の左右差があることが多く、座位姿勢の崩れや褥瘡の発生の原因となっています.そのため、このような場面では非対称な姿勢を強めないように、適切な着座姿勢を保つことが大切です.


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