さざんかの奇跡
わたしの実家の庭には、花を咲かせる木がたくさんある。
椿、梅、金木犀、山茶花、わたしが生まれる前はもっとあったらしい。
山茶花
今はもう寿命が来て咲かなくなった、その山茶花の話をここでしたい。
山茶花は鮮やかなピンク色が綺麗だけれど、散ってしまうと風でどんなとこへでも飛んでいってしまうほどの軽やかさを持っている。
小さい頃はぶつぶつ文句を言いながら掃除をするのが冬の定番。
寿命が来て咲かなくなったのは、わたしが一人暮らしを始めた年だった。
もう実家に帰っても山茶花を見ることができないと悲しんだわたしに、母は
「あの山茶花、本当はもっと早く咲かなくなるはずだった」と言った。
わたしが小学生の中学年くらいの頃には寿命の話があったらしい。薬をあげればまだ持つけどと言われたが、薬代が高くて断念した。
だけど、結果的にはだんだん咲く花の数は減っても、10年くらい咲き続けてくれた。
そして、私の旅立ちとともに山茶花も咲くことをやめた。
この話を聞いたとき、わたしは泣きそうだった。
当たり前に咲いていた山茶花に命と感情を感じたから。
残りの花々もいずれは咲かなくなるかもしれない。
それまでにわたしは何回実家に帰れるだろうか。
今年も綺麗に咲いてくれる花たちも、咲くことをやめてしまった花たちもわたしはずっと愛し続けたい。