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オッサンに追いかけられた話


 高校を卒業してボクは大阪のコンピュータ専門学校に入学した。
2年間の短期の専門学校で、2年目に入ってまもない頃の事だった。

昼から友人と2人で日本橋にある10円ゲーセンに行こうという話になって、地下鉄を乗り継いで出かけた。荷物は学校に置いたままだ。ゲームをして荷物をとりに学校まで戻っている途中で友人が俺に囁いた。「さっきから後ろのオッサンついてきてない?」

ちらっと後ろを見ると確かにオッサンが10メートルほど後を歩いてきている。確かあのオッサン地下鉄に乗ってる時すでにいた様な…
「ちょっと止まってみる?」ボクたちはわざと足を止めてまたちらっと後を見ると、オッサンも止まっているのが見えた。

「次の角曲がったらついてこないかも?」角を曲がってからしばらくしてまたチラッと後ろをみた。…ついてきている。これは偶然同じ方向に歩いているだけ…ではないだろうとボクたちは薄々わかってきた。少し早足で学校のあるビルに向かう。

その時の学校は本校とは別に近くの貸ビルの2階と5階を教室で使っていて、ボクたちは貸ビルの方の5階に荷物をとりに向かっていた。

貸ビルのドアに向かって急いでいる時、そのドアの反射でオッサンがかなりせまってきているのが見えた! ドアを入ると通路先、正面にはエレベーターがあるが、エレベーターを待つ時間も閉める時間もないと判断した。必然的に角を曲がった先にある階段を使う事になる。

なぜかボクたちはその場ですぐ走り出さない…がどんどん早足になり、小声で「あの角曲がって見えなくなったら走るぞ!」と言ってタイミングをはかった。
そして角を曲がった瞬間、階段を一気に5階まで駆け上がった。

5階教室のドアを開けると生徒がたくさんいてわいわい話をしている。
5階に入るところはオッサンに見られていないし、その場の雰囲気にボクたちは安心して、オッサンはもう来ないと何故か思い込んでしまった。

「今、変なオッサンに追いかけられて…」と言いかけた瞬間、ドアがバン!と勢いよく開いて、あのオッサンが現れた!

ボクはびっくりして教室の奥に逃げた。
そして一緒に逃げてきていた友達はボクとは違う方向に逃げた…がオッサンが追いかけてきたのはボクの方だった…! もしかして2人で逃げてきたけど、最初からオッサンはボクを追いかけてきていたのでは⁉︎ …そう思うと恐怖がみるみる増してきた。

とうとうボクはそのオッサンと長机一枚を挟んで対峙したかたちになった。身長180センチくらいでボロボロの服に、目はどこを見ているかわからないオッサンが目の前にいる…喋りかけてくるわけでもなく、目の前に立っていて、俺が右に行こうとすると右に来ようとする… 

なんなんだ… 何が目的なんだ…訳がわからない事ほど怖いものはない。
まだ喧嘩に巻き込まれるほうがマシなくらいだ。ボクは精一杯のフェイントをかけてその膠着状態を脱した。

教室では生徒会役員と先生が輪になって会議をしていたが、オッサンから離れるためにその輪の中を突っ切って元入ってきたドアへ向かった。急に会議に乱入したボクの行動にみんなが状況を理解して騒然となっていたが、こっちはそれどころじゃない。

うまく教室からでたボクは階段の踊り場から踊り場まで飛んで降りた。人間必死になるとすごい事をするものだ。跳ねながらボクは信頼できる友人たちが2階の教室の喫煙所にいるんじゃないかと考えてそこに向かった。

2階のドアを開けて入ると、案の定友人たちがいた!友達の顔見た瞬間、安心したのか腰が抜けた様にそこにしゃがみ込んでしまった…
そしてボクは自分でも何を言ってるんだ?という言葉を吐いた。
「助けてくれ…追われてるねん…!」 

普段なら何言うてんねんと言いそうな友達たちも、ボクの表情が本気なのをすぐ察した様で、「教室の裏へ隠れとけ!」と言ってこの異様な状況に対応してくれた。
ヘロヘロになりながらも隠れて様子を見ていると、バン!とドアがまたもや勢いよく開いた。女友達は驚いて悲鳴を上げた。ボクもまた一気に緊張が高まった。

しかしちょうどその時、そこには警備員のおじさんがいて、オッサンが入ろうとした瞬間に怒鳴りつけて追い出してくれた! どうなるかと思っていたこの状況も警備員さんによって思ってたよりあっけなく終わった。 ボクは助かった…

そこからは帰るまで全てが怖かった。角を曲がるといるんじゃないのか、エレベーターが開くといるんじゃないのかという恐怖。友達が一緒に行動してくれた。
帰りも別れるまでは一緒にいてくれ、なんとか無事に帰路についた。

次の日学校でその後の話を聞くと、あのオッサンは本校にまできてウロウロしていたらしい。ボクを探していたのだろうか…数日ボクはその恐怖を引きずって生活した。


 事件の被害にあった人に対して「なぜ助けを求めなかったのか?」と疑問を持つ人がいるが、日常では遭遇しないと思っている恐怖に支配されると、人は動けない、声が出ない、力が入らなくなるものだ。

ボクはそれをこの事で身をもって味わった。

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