おばあちゃんの家1 〜朝の光景〜
小学生の頃の思い出は、殆どが夏にある。夏はボクにとって特別だった。今思えば、その時見た何気ない風景も今は失われたもので、あの特別な時間はもう戻らないことをこの歳になって知った。
夏休みに入ると、和歌山市内に住んでいた従兄弟がおばあちゃんの家にやってきて、夏休み中一緒に寝とまりして過ごすのが決まりごとのようだった。
朝起きるとまず外に出て顔を洗う。
おばあちゃんの家の玄関を出てすぐ前には水道があって、年中水が出っ放しだった。その水は谷から引っ張ってきた水なのでそんなことができた。朝も夜も水がジョボジョボ出ている音が聞こえてくる。
とくに夏の朝に聞けばその音は清々しい。音だけでなく谷の水は冷たく気持ちいい。
その水道の横にはいつも、ダルマのように下側が丸い、レトロなコップがかかっていた。
朝はその水道で顔を洗い、歯磨きをした後はそのコップを使った。そしてまた元の場所にコップをかけるのだが、水に濡れたコップは朝の光と、透過する夏の緑でキラキラと輝いて見えた。
朝ごはんにはおばあちゃんが作った卵焼きや、きゅうり、ナスの糠漬けが並んだ。
思い出の中で美化されるからか、いま目に浮かぶそれら何気ない朝の光景は、とても鮮明であり、朝ごはんはとても美味しかったように思うのだ。