ワタシは宇宙人 「バスガイドの一歩」 #17
1998年、4月。
いよいよ、わたしのバスガイドとしての新しい日々が始まった。
入社すると研修期間が1ヶ月ほどあった。バス乗務でのノウハウを徹底して教わり、発声練習や早口言葉、歌などを習った。
そして何より、歴史についての案内が出来るのが、わたしにとってはたまらなく嬉しかった。
白虎隊や忠臣蔵などの長文の案内も必死で暗記した。
ある日、見習いとして乗務歴20年の超ベテランの先輩のバスに乗った。度肝を抜かれた。
彼女の案内が始まると、バスの中の空気が変わるのが分かった。
彼女の口から紡ぎ出される言葉の1つ1つに、まるで命が吹き込まれていくようだった。わたしは言葉という魔法にかかり、彼女の表現するその世界に引き込まれていった。
今思えば分かるが、あれが言霊の力というものなのだろう。
言葉の力ってすごいなぁ!!!
わたしは全身を走る鳥肌を感じながら、自分もいつかそうなりたいと強く思った。
研修期間が終わると、あとはやって覚えろと突然乗務につくようになった。
バスガイドの仕事は大変だった。朝の4時にバスが出庫することもあった。帰りはバス掃除が終わるのが夜中の1時を回ることもあった。
秋のピーク時には2泊3日、1泊2日、1日空いてまた2泊3日とハードなスケジュールが続いた。合間を縫っては次の案内を暗記したり、資料を調べたり、現地の人の話を聞いてネタにしたりした。
そして、観光のコースでは神社を巡ることが多かった。それまでは、日本の神さまに関してはほとんど無知だったが、勉強して少しずつ知識をつけていった。
これはずっと後で分かったことだが、わたしはこの時に仕事で色々な神社を巡りながら、色々な神さまとのご縁を頂いていたんだと思った。
人生にはいくつかの転機がある。
だけど、その時は現実に向き合うことに必死で気づかないものだ。
人生の転機というものは、後から振り返ってみて初めて分かるものなのかも知れない。
わたしはバスガイドという仕事を経験したからこそ、知ることが出来たことはたくさんあった。
日本の歴史をずっと過去に遡って行くと必ず神話に辿り着く。
そこには八百万の神さまが誕生する背景と日本人独自の世界観があり、自然と調和して生きた先人たちの知恵が見え隠れしていた。
そして日本神話との出会いは、後のわたしの人生に大きく影響を与えることになっていった。