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ISO26000を理解する: 認証規格ではなく手引書である理由

さあ、火曜日だ。

火曜日は、持続可能な社会について考えている。
現在のテーマは「ISO26000」の理解を深めていくことだ。

ISO26000は、国際標準化機構ISOによって開発された、持続可能な発展を実現するための社会的責任に関する包括的な手引書であるのだが…


認証規格と手引きの違い

(先週の記事にも書いたが)日本で広く普及しているISO規格は9001と14001だ。

ISO9001は品質マネジメントシステムで、ISO14001は環境マネジメントシステム、共に「認証規格」である。

認証規格の場合、それぞれの規格の要求事項(〇〇をしなければならない: 英語原文では助動詞「shall」が使用される)が定義されていて、それらが充足しているかがチェックされ、規格への適合の評価の結果に基づいて第三者機関(ISO規格の場合はISOが)認証を与えるという仕組みだ。

それに対し、ISO26000は「社会的責任に関する手引き(Guidance on social responsibility)」だ。手引き(〇〇すべきである: 英語原文では助動詞「should」が使用される)であるが故に要求事項が存在せず、よって認証を取得することもできない。

なぜ「手引書(ガイダンス)」なのか

では、ISO26000とは何だろう。
なぜ、ISO26000は「認証規格」ではなく「手引書」なんだろう。

まず、ISO26000を導入しようとする企業に(認証を受けていなくても)規格が存在していることが大前提だ。そして、ISO26000が手引書である理由は、そういったプロセス(それは、企業運営のためのオペレーションプロセスであったり、コンプライアンス遵守のための承認プロセスだったりするわけだが…)の中に、地域社会や周辺環境への配慮などの社会的責任の考えを組み込んでいくことが前提となっているからだ。

それによって、企業が(もしくは企業内の組織に属する個人が)社会的責任の理解を深め、主体的に行動することができるようになることを目的としているのがISO26000だ、と考えるとしっくりくる。

日本経団連の「企業行動憲章」

ちなみに、日本経団連が2010年に「企業行動憲章」なるものを発表(2022年に改訂)している。読んでいくと、ここに書かれている内容が「企業が実現を目指していくべき事柄である」と誰もが思うはずだ。

企業行動憲章
― 持続可能な社会の実現のために ―

企業は、公正かつ自由な競争の下、社会に有用な付加価値および雇用の創出と自律的で責任ある行動を通じて、持続可能な社会の実現を牽引する役割を担う。そのため企業は、国の内外において次の10原則に基づき、関係法令、国際ルールおよびその精神を遵守しつつ、高い倫理観をもって社会的責任を果たしていく。

(持続可能な経済成長と社会的課題の解決)
1. イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る。

(公正な事業慣行)
2. 公正かつ自由な競争ならびに適正な取引、責任ある調達を行う。とりわけパートナーシップ構築宣言に基づき、サプライチェーン全体の共存共栄を図る。また、政治、行政との健全な関係を保つ。

(公正な情報開示、ステークホルダーとの建設的対話)
3. 企業情報を積極的、効果的かつ公正に開示し、企業をとりまく幅広いステークホルダーと建設的な対話を行い、企業価値の向上を図る。

(人権の尊重)
4. すべての人々の人権を尊重する経営を行う。

(消費者・顧客との信頼関係)
5. 消費者・顧客に対して、商品・サービスに関する適切な情報提供、誠実なコミュニケーションを行い、満足と信頼を獲得する。

(働き方の改革、職場環境の充実)
6. 従業員の能力を高め、多様性、人格、個性を尊重する働き方を実現する。また、健康と安全に配慮した働きやすい職場環境を整備する。

(環境問題への取り組み)
7. 環境問題への取り組みは人類共通の課題であり、企業の存在と活動に必須の要件として、主体的に行動する。

(社会参画と発展への貢献)
8. 「良き企業市民」として、積極的に社会に参画し、その発展に貢献する。

(危機管理の徹底)
9. 市民生活や企業活動に脅威を与える反社会的勢力の行動やテロ、サイバー攻撃、自然災害等に備え、組織的な危機管理を徹底する。

(経営トップの役割と本憲章の徹底)
10. 経営トップは、本憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識して経営にあたり、実効あるガバナンスを構築して社内、グループ企業に周知徹底を図る。あわせてサプライチェーンにも本憲章の精神に基づく行動を促す。また、本憲章の精神に反し社会からの信頼を失うような事態が発生した時には、経営トップが率先して問題解決、原因究明、再発防止等に努め、その責任を果たす。

https://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2022.html

ステークホルダー・エンゲージメント

その前提として「ステークホルダー・エンゲージメント」という考え方が定義されているのだが、非常に幅広く使えるものであるように思う。

エンゲージメントの日本語訳には様々な語義が存在するが、その中で「噛み合う」「係合する」あたりが適切で、双方向の対話から生まれる「相互作用」「化学変化」「共通の課題解決のためのパートナーシップ関係の構築」などのイメージがしっくりくるはずだ。

以下に定義と解説を記載しておいたのでご参照いただきたい。

ステークホルダー・エンゲージメント

【定義】
企業が社会的責任を果たしていく過程において、相互に受け入れ可能な成果を達成するために、対話などを通じてステークホルダーと積極的にかかわりあうプロセス

【解説】
1. エンゲージメントは、企業がステークホルダーと見解を好感し、期待を明確化し、相違点に対処し、合意点を特定し、解決策を創造し、信頼を構築するための協議プロセスとして有効である。

2. エンゲージメントはどちらか一方からの働きかけではなく、双方向で相互作用をもたらすものである。

3. ステークホルダーの声に耳を傾けつつ、最終的に責任をもって意思決定するのは企業である。

4. 基礎となるのは双方向のコミュニケーションである。

5. 企業とステークホルダーとの関係やエンゲージメントのあり方は多様である。さらに、状況、時間、リスクや機会、課題などの変化によって常に変化するダイナミックなものである。

(続きはまた来週)


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