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ひと夏だけビアガーデンを運営した話

2012年の初夏のことだ。
ボクは長年勤めた大手運送会社を退職した。

退職するにあたり、お取引のあったお客様にご挨拶に回ったのだが、懇意にしていただいていたお客様から「ビアガーデンをやるのを手伝って欲しい」と打診を受けた。そこそこの退職金が入ることになっていたので、ボクはしばらくゆっくりしようと思っていたのだが、そんな面白そうなお誘いは滅多になさそうだったので、お話しを受けることにした。

場所は某大都市の衛星都市だ。
駅の周りに昔ながらの一戸建てがひしめき合っていて、そこに大型の商業施設が建設され、それに隣接して3棟のタワーマンションがそびえたっていた。ボクらはその商業施設の屋上の一角にテントを張って厨房設備を置き、パラソル10本と椅子40席を置き、目立つように紅白の提灯を並べて明かりを灯すことにした。全てレンタル品だ。厨房はオーナーの古い友人が来てくれることになり、食材も調達してくれることになった。

残った問題は、ホールスタッフをどうやって集めるかだった。
今のところ、ホールスタッフはボクしかいない。それではどう考えても40席のホールを回せない。しかもオープンまで残り2週間だ…
そんな時に、施設の屋上に提灯が並んでいるのを目ざとく見つけた某募集サイトの営業マンが訪ねてきたのだ。

彼の提案はこうだ。
「この時期、都会の大学に通っていた学生が夏休みに入ります。期間限定のビアガーデンなら、ちょっと高めの時給設定にすれば20名くらいの応募は間違いないですよ!」

ボクは他に頼るところがなく、二つ返事でOKした。
結果は早かった。すぐに応募があり、沿線に住んでいる10名の大学生が来てくれることになった。その後も応募は続き、結果的に彼が言ったとおり20名以上の応募があった。

アルバイトの子たちは優秀だった。
ボクは飲食は未経験だったので、何をしていいか全くわかっていなかったのだが、飲食経験のある子がホールスタッフのいろはを教えてくれた。リーダーの才覚のある子がチャキチャキとLINEグループを作って、アルバイト全員のシフト管理をしてくれた。
ボクは、ただ彼らに「ありがとう!」「助かるよ!」と言っていただけだったが、自然とホールはリーダーの指示のもと、アルバイトの子たちで上手く回るようになり、ボクは彼らが困ったときのサポート役に徹した。



それまでボクは会社の組織の中で擦り切れるまで働いていた。
自分の優秀さは誰にも負けないと思い込んでいて、認められないことを悔しがっていたし、反発していた。
なんとかして良いチームを作ろうと躍起になっていたし、そのためにマニュアルを作り、データを取って掲示した。毎朝朝礼を行い、綿密なミーティングを開催し、他のチームに負けないようメンバーを鼓舞した。みんな必死の形相だったに違いない。

しかし、大学生のアルバイトの子たちは、軽やかに、しなやかにチームを構築し、十分な成果を出した。彼らの中で自然発生的に役割が決まり、みんなが自然と自分の役割をこなし、楽しそうに仕事をしていた。

ボクの役割も自然と決まった。
そんなやり方でチームを管理をしたことは、それまでなかった。



風がちょっと秋めいてきた頃、ビアガーデンは閉じる時期を迎え、アルバイトの子たちも学生生活に戻っていった。みんな最後まで笑顔だった。
彼らが今どんな社会人になっているか知る由もないが、貴重な経験をさせてもらったことに、改めて感謝したい。


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