「オンボロ屋敷の桃色ヤモリくん」第9話
黒猫コムギ(3)
ボクたちは、じつはつい最近愛猫を亡くしたばかりで、その悲しみもまだ癒えてはいなかった。
そして、その時にボクたちは誓った、もう決して生き物は飼うまいと・・・。
それは、失った時の悲しみに耐える事が辛かったからだ。
猫の寿命は、長ければ30年近くは生きる。その長いあいだ家族と同様に暮らしてきた猫がいなくなる辛さは耐えがたいものがあったからだ。
そのような事だから、僕たちの家でこの子猫を飼うという選択肢は最初からなかったのだった・・・。
ボクたちは家では飼えない事もあって、この子猫の飼い主を探し近所の家を探し回った。
子猫だから飼い猫だとすれば、そお遠くから来たわけでもなないだろうと思ったからだ・・・。
しかし、出来る限りの家を回って訊いてみたが、飼い主は見つからなかった。
それに、もし飼い主が見つからない時には、飼う事は出来ないかという事も同時に訊いて回ったが。
残念ながら飼い主も、飼ってくれそうな家も見つからなかった・・・。
だが、ある家で、こんな話を聴いたのだった。それは、何日か前に野良猫が車に轢かれて死んでいたというのだ。
それを聞いた妹のサクラは、「もしかしたら、その猫がこの子猫の親猫だったのかもしれないわね」と言った・・・。
それを聞いて、ボクも、もしかしたらと思ったのだった。
しかし、そうすると困った事に成ったとボクたちは考えたのだった。
家に帰ってきたボクたちは、箱の中でスヤスヤと眠っている子猫の姿をみながら話し合ったが。
やはり家では飼えないとの結論にいたったのだった。
それからのボクたちは、ネットで調べた、子猫を助けてくれそうな動物愛護団体系と思えるような所に数多く電話でお願いしてみたが、どこも芳しい返事はもらえなかった。
それはもう、何件も何件もかけて見たが、中にはケンモホロロに「家で飼えないのなら助けるな、そのままにしてほっておけ」と言われたり、毎月何万円の飼育費を出してくれるなら引き取ってもいいと言われるなどなど。
ただ、全てがそうだったわけではなく、中には本当に親身になって心配してくれ、うちでは手いっぱいでダメだが、もしかしたらと心当たりを教えてくれるような親切な団体もあったのだが・・・。
ボクたちは、ただ行き場のない子猫を助けたい一心なのに、心無いとも思えるような言葉を投げかけられてボクたちは、ホトホト疲れ切ってしまったのだった・・・。
そんな時に、ボクは
「そうだ、猫カフェの西川のマダムの所ならどうだろうか」
と思いついたのだった。
しかしすぐに、
「いや、きっと西川のマダムなら、この子猫をひきとってくれるだろうが・・・」
この子は黒猫だし、もしかしたらお客さんにあまり喜ばれないかも知れないなとの思いがよぎったのだった。
黒猫は洋の東西を問わず、不吉だとか、いたずら猫だとか言われている。だから、保護施設でも最後まで引き取り手が見つからない事も多いという。
本当に猫好きの人ならば、きっと黒猫だからと差別などしないと思うのだが。世間一般的には、どうしても黒猫は嫌われるようだ。
それに、ボクは何だかこの子猫が、先日亡くなった愛猫の、トンちゃんの、生まれ変わりのような気がしていたのだった。
本当は、ボクたち2人とも、最初にこの子猫にであった時に、心のどこかでは、きっとトンちゃんがこの子猫に生まれ変わって、またうちに来てくれたのではないかと思っていたのだった。
それに、トンちゃんも野良猫だったのだ。トンちゃんは、ある時、ふらっと我が家にやってきてそのまま住み着いてしまったのだった。
トンちゃんが、我が家にやって来た時には、もうすでに大人の猫であったにもかかわらず。トンちゃんは、それからまるで歳を取る事を忘れているのではないのかと思えるほど元気でいつまでも長生きした猫だったのだ・・・。
それにボクは、黒猫であろうとも何の偏見も無い。
もちろん、占いや縁起事にも詳しい妹のサクラだって、黒猫であろうとも道理の通らない迷信のような理由で、黒猫だからとか白猫だからと差別するような事は一切なかったのだった・・・。
それから3年。
今では、我が家のカワイイ愛猫となっているのが、その時の黒猫コムギなのだった。
なあ、コムギちゃん、とっいて頭を優しくなでてやるとコムギは
「ニャーゴー、ゴロゴロゴロ・・・・ニャーン、ゴロゴロ・・・」
といって答えてくれるのだった・・・。
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連載小説(不定期)
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連載小説(不定期)「オンボロ屋敷の桃色ヤモリくん」第9話「黒猫コムギ(3)」
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2020.9.12