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今日よりいい日
緊張すると眠れなくなる。特にそういう性分が自分にあるとは思わなかったが、何も無い日は普通に眠れるのに、次の日に稽古や何か予定があると、例え疲れていて眠くなっていたとしても、ベッドに入った途端眠れなくなる。寝坊しないか不安になったり、何か失敗するかも、なんて考えてしまう。それに加えて最近の寒さも相まって、指先、足先が冷える。そういうときは3時間眠れたらいい方かもしれない。
今日はレッスン、稽古の日だった。前回は何も言われなかったが、それが続くわけはなかった。寧ろダメ出しが飛んできて安心した。それに先生も言っていた。何も言われないからと言って、別にできているという訳ではない。その通りだ。特に私の場合は日によってムラがある気がする。今日も役に入りきれないまま稽古がスタートした。なんだかフワフワしていたが、だんだんと役と世界に入っていけた。楽しかったが、それではダメなのだ。最初から準備出来ていないとダメだ。安定したクオリティを保つのも私の課題だと気づいた。
稽古終わりに同じ班の子たちと自主練をした。特に大きく動く場面の段取りを確認しつつ、相談しながら演じる上でそれぞれが納得した動きができるように工夫して練習する。なんだか今までした自主練の中で1番楽しかったかもしれない。派手な場面だった、ということもあると思うが、それ以外でも、自分が動く上での違和感を無くせたと思うし、何より、自分がやってみたいと思っていた動きも言えたし、そしてみんなも乗って手伝ってくれた。最終的には先生の判断だからボツにされるかもしれないが、それでもいい。上手く言えないが、達成感があった。お陰でボツでもすぐに別のやり方に潔く変えられる。1回だけ、チャレンジしてみよう。
自主練の後、舞台や何かしらの発表会お馴染み、ちょっとした不破が浮き彫りになっていた。正直その事柄については、私も少し嫌な思いをしていた。ただ、私の場合は嫌なこと、もしくは嫌な人ができた場合、その時点で関わりたくないので、何も言わずそっと距離を置き、興味すらなくしていく。そうすると、興味ないから考えないし、どうでも良くなる。だから深く考えることはなかったが、その事で、お芝居してても楽しくない、とか、やりたくない、なんて言葉を聞いてしまった。そもそも私が興味を持たずにいられるのは、その事柄とは別の班だからだ。その班の子達はたまったものじゃないだろう。もう放っておけばいいのでは?なんてふと思ったものの、そんなわけにいかないことはすぐに気づいた。舞台はチームプレイだ。それぞれが自分勝手に動いてもダメだし、誰か以外がまとまっているとかでもダメだ。全員が同じ方向を向き、コミュニケーションを取りながら芝居をする。そうでなければきっと成立しない。いくら一人一人に実力があっても、個では出来ないのだ。誰かが足りなければ誰かがカバーしなければならないが、偏ってはいけない。楽しくない、やりたくない。その言葉がとてつもなく悲しかった。その子のお芝居はいつもイキイキとしていて、演じるのが楽しいと言わんばかりだったからだ。そんな子が楽しくないと泣くのはなんだか辛い。本来その子の肩に乗ることではないし、誰の肩に乗ることでもない。別班のことに何か言える立場でも実力でもないのは重々承知だが、最後にはみんな楽しんで舞台上に立っていて欲しい。
帰路について考え事をしながら駅の中を歩いていると、後ろからお姉さんに呼び止められた。カバンに擦れてスカートがずり上がっていると教えてくれたのだが、スカートではなくシャツの裾で、丈の長いシャツに隠れてはいたが、ショートパンツを履いていた。お姉さんは「あ!ごめんなさい余計なこと言っちゃいましたね!すみません!」なんて言っていたが、見ず知らずのお姉さんが私のことを心配してわざわざ声をかけてくれた。私はそれが嬉しかった。同じ立場でも同じように声をかけられたか分からない。そのお姉さんの優しさ故の行動だ。尊敬するし、私もそうなりたい。
今日は楽しかったし、辛かったし、嬉しい日。色々ごちゃごちゃしていたけど、どれも重要なことだったと思う。次の稽古は稽古だけじゃなく、私だけじゃなく、今日よりいい日になればいい。