【連続小説】騒音の神様 53 盛山花守、カブ好きの鰻谷と出会う
歯が欠けた垂水が大学に行き、あまり言いたくはないが言わないと気がすまない事を仲間に言っていた一日。盛山花守は、夜勤仕事明けに朝からカブに乗っていた。大和川の土手を降り、でこぼこの地面を走る。雑草を踏み分け、木と地面を足で蹴りながら走り続ける。そんな様子を、土手の上で見ていた男がいた。ノーヘルでカブにまたがりながら、「ゴッツイ体でカブに無茶しやがって。壊れてまうで。」とぶつぶつ言いながら見ている。ただ、表情はにこやかで、バイクが好きで見ていた。花守が、急な土手を力づくでカブを押し上げながら足で登る。花守が土手の上に上がって来たとき、男は声をかけた。にこやかに。「兄さん、カブに無茶しすぎやで。ゴッツイ体で変な場所走って、スーパーカブ壊れてまうで。」と言う。盛山花守は「ああ、カブは丈夫やで。全然走れるで。」と平然と答えた。男はまたにこやかな笑顔のまま、「ビックリするわ。大丈夫ちょうよ、いかれてまうよ。その素敵なスーパーカブが。ちょっと俺に見せて、カブ。俺だいぶ詳しいから。」と言って花守がまたがるカブを見始めた。「兄さん、俺、鰻谷。ウナギタニ、よろしく。カブのことはだいたい解るから。ちょっと降りてくれへん。」とづけづけと言う。続けて、「無茶しすぎやで。カブの限界、いやスーパーカブの限界に挑戦せんとって、大事にしたってよ。俺の家、すぐ下やから見たるわ。着いてきて、」と花守が乗るスーパーカブが心配で仕方がないようだった。土手を降りてすぐのところにある、鰻谷の家の前にある作業場。鰻谷はにこやかに、かつ真剣に花守のスーパーカブを見る。鰻谷が工具を持ちながら、花守に話しかけながらしばらくすると泥だらけだったスーパーカブがピカピカになった。花守は思わず「新品みたいやないか、」と言い感動した様子だ。鰻谷は、「いつでも来て。タイヤ交換でもオイル交換でも何でもしたるわ。実費は貰うけどな、」とにこやかにケタケタと笑った。花守は、「助かるわ。また、ほんまに頼むわ、」と嬉しそうに言った。
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