【連続小説】騒音の神様 23 万博造成現場の戦い二回目の終了
暗闇の森の中、盛山がカブを押しながら歩き始めた。トラックが相変わらず森の外からライトを照らしている。神様は盛山の後ろを歩きながら拡声器を手に話し始めた。「街に子供の音を響かせるんや。大人は静かに、子供の音を守るんや。」森の中に神様の割れた声が響く。二人の倒された男達は、しゃがんだまま神様の声を聞いた。倒された二人にとっては、ただの見知らぬお爺さんだが。盛山が強かったので、二人とももう戦う気にはなれなかった。
盛山がカブを押しながら森を出て道路に出た。神様に「ほな、行きますよ。」と言ってカブにまたがる。神様も後ろに乗る。盛山と神様が軽快な音と共に走り去るのを確認すると、トラックに残っていた男がトラックから降りて森の中に入って行った。「おい、大丈夫か、大丈夫か、」森の中から返事がある。「大丈夫なわけないわ、なんやあれ。強すぎるやないか。」「あご、はずれてまうわ。」などと言いながら、暗闇の森の中でレンチとバールは探し出して三人で森を出た。三人ともあまり話したくなかった。一人の男に何人もやられて、自分達も倒され、何を口にすれば良いか分からなかった。
盛山と神様は、バイクの風で疲れを体から吹き飛ばしながら走った。相変わらず盛山は疲れなど感じていなかったが、それでも体のいらない物が風で飛んでいく気がした。カブで感じる夜の風はそれくらい気持ちが良かった。盛山は今日の戦いに満足していた。とくにトラックが追いかけて来た事、トラックとぶつかりそうになり森の中をカブで走ったこと、暗闇の中で戦ったこと。盛山にとって今日の夜は刺激的だった。また森の中を走ってみたいとも思った。当然、神様にとっても刺激的な夜だった。二人は時折、今日の刺激的なことをお互い話ながら家までのツーリングを、夜の景色を楽しんだ。
盛山と神様がカブで気持ちよく走っている頃、大阪のとある居酒屋でやたら気の強そうな男が吠えていた。「おい、表でろや。やったろやないか。合気道の強さ見せたろやないか。」それを言われた男達三人が笑いながら「上等や、どうせ口だけの根性なしやろ、」と口にしながら店を出ようとした。店内の口論を聞いていた女将は、「喧嘩は出来るだけ店から離れてやってや、勘定は今はろてってや、」と怒った様子で大声で言った。喧嘩する気満々の男達は、素直に勘定を済ましてから表に出た。