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【まとめ読み】騒音の神様 135〜137 台風がやって来た。

竹之内は次の日も、万博現場にやってきた。朝にはボクシング体操でフックを教えた。それから万博内を移動しながら、ヒジ打ち男を見張っていたが雨が降って来た。どの現場も片付けが慌ただしく始まる。
「台風来るとは聞いてたけど、えらい早いな。」と竹之内はつぶやく。風も強く、万博にある森の木が、うなり声をあげているような音をたてている。竹之内は、竹之内工業の片付けを手伝う。現場自体は松原が仕切っていて、竹之内が口を出すことは無かった。松原は皆に言う。
「台風が来たで。風で飛んでいきそうな道具は全部トラックに積め。雨もやけど、だいぶ風も強いし、台風もでかいらしい。全部持って帰る。」
皆が現場の道具を片付ける。松原と竹之内は、作業している場所を見回る。風で小さな木や葉が飛び回っている。ベニア板も飛んでいる。松原は竹之内に
「相当、でかい台風みたいですね。風が凄いですわ。」
竹之内も
「ああ。明日もどうなるかわからんな。」
二人は現場から飛んでいきそうな物が無いか確認をしたあと、現場を離れた。竹之内工業の皆が万博を離れてすぐに大雨が降ってきた。横から叩きつけられるようはな激しい雨だ。ハーレーに乗っている竹之内は、雨で前があまり見えなかった。はっきりしない視界と雨の轟音の中、イギリス風ヘルメットを被った男とすれ違ったような気がした。
「カブに乗ってたな。まさかヒジ打ち男か。まあ、こんな台風の中、何もせんやろ。」
竹之内は雨風の中、ハーレーで会社まで走り帰った。

大雨の中、竹之内がすれ違ったバイクが走っている。スーパーカブに二人の男が乗っている。運転しているのは、ヒジ打ち男こと盛山花守だ。イギリスバイク風ヘルメットに、激しい雨がバチバチ叩きつけられる。後ろには、神様が花守にしがみつきながら乗っている。工事用のヘルメットをかぶり、顔はずぶ濡れのびしょびしょで前はもう見えていない。神様は雨に打たれながら大声を張り上げて花守に話しかける。
「雨は、夜からやと思たんや。早い、予想よりえらい早いがな。台風来んの、えらい早いがな。すまんな花守君、こんな日に万博こさしてしもて。早よ帰ろ。雨宿りするか、どないしよ、あかん、風でワシ飛ばされるわ。」
と神様は雨に打たれながら、風で吹き飛びそうになりながら必死に叫んでいた。神様と花守は、万博の近くまで走って来た時に豪雨に遭った。花守はさすがの強風と雨に
「引き返します。現場の車も、引き上げて行ってますわ、」
と言って引き返し始めた。花守は、雨宿りできそうな何かを探すが、周りは田んぼや林が多い場所ですぐに止まる訳にはいかなかった。
「神様、しばらく辛抱してください。耐えて下さいね。」
とスーパーカブは早くはないスピードで雨にひたすら打たれながら進む。花守の力強い運転でも、スーパーカブが風で右に左に流される。おまけに道はでこぼこしていて、カブは上下に跳ねながら走る。神様は、必死で花守にしがみつく。花守は、屋根付きのバス停を見つけてバイクを停めた。神様と花守は、バス停の中に入る。全身から水がしたたり落ちる。他にもバス停に人がいて話かけて来た。
「えらいビショビショやな。急に降って来たからな。そやけどのんびりしてたらあかんで。あんたらバイクやろ。雨はやまんで、激しなるで。これからが本番みたいやで。」
と言ってくれた。神様はその言葉を聞くなり
「花守君、出発や。頑張って帰ろ、」
と言って雨の轟音の中、二人はまたスーパーカブにまたがって走りだした。

神様と花守は、びっしょびしょで家についた。神様は興奮気味に花守に話す。

「すまんかったな、花守君。こんな日に万博行こう言うてしもて。台風あまく見すぎてた。ほんますまんかった。」

と濡れた服を脱ぎながら頭を下げる。玄関から部屋の中まで、床は二人のしずくでびしょ濡れになる。花守は
「いいですよ。雨は嫌いじゃないです。」と言いながら服を着替える。神様は帰り道を思い出して喋り出す。
「大和川は、危なかったな。あれは、あふれるんと違うか。明日も万博行くのはやめとこ。」
そう言っている間にも、雨風が窓ガラスをバチバチ叩く。そして隙間風が、ヒューと音を立てて部屋を通り抜けていく。それからしばらく二人は静かに部屋の中で過ごした。花守は仕事の時間になると立ち上がって出発の準備をした。花守は
「まあ、今日は仕事ないとは思うんですけど。行くだけ行ってみます。行ってきます。」
と言い、神様は
「気つけてな。無茶せんようにな。行かんほうがええと思うんやけどな。まあ、早よ帰っといでや。」
と言い送り出した。

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