デジタルシネマカメラ『VENICE 2』を語る(後編)
ソニー広報部のYIです。先日掲載した前編に続き、後編では今年2月に発売したデジタルシネマカメラ最上位機種『VENICE 2』の開発や販売に深く携わるメンバーに、直撃インタビューを行いました。
開発裏話のほか、『VENICE』が使用された作品のアカデミー賞受賞など最新のニュースをご紹介します。
お話を伺ったのは、こちらの皆さんです。
挑戦者の立場だったソニー
庄野:ソニーは映画制作用のカメラをCineAlta(シネアルタ)というサブブランド名で2000年から展開しています。
映画がフィルムで撮影されていた頃からカメラを開発している会社があるなか、挑戦者という立場でデジタルシネマカメラのビジネスに参入しました。
岡橋:『VENICE』は、現場でカメラを使うユーザーの声を徹底的に聞いて開発しました。ハリウッドなどの予算規模の大きな映画では俳優のスケジュールもタイトで、一刻を争う撮影現場においてカメラの操作ミスは許されません。通常4、5人でチームを組んで1台のカメラを操作し、撮影の指示を出す撮影監督、フレーミング(画角)を決めるカメラオペレーター、絞りやフォーカスを調整するカメラアシスタントなど、明確な役割分担があります。
複数の人間が同時に設定できるよう、カメラの左右両面にコントロールパネルを搭載しており、誰が・いつ・どのような操作をするのかといったヒアリングを重ね、使う人の役割に応じてボタンを絞り込むなど、最適化させています。
庄野:そうした地道な検証を重ねた結果、画質はもちろん、その操作性についても業界で高く評価いただき、世界中の映画をはじめ、国内外のドラマやコマーシャル、著名なアーティストのミュージックビデオなどの撮影に広く使用していただけるまでに成長しました。以下はその一例になります。
最大のチャレンジは小型化の実現
岡橋:『VENICE 2』の最大の特長は、従来必要だった『AXS-R7』という外部レコーダーが不要になり、本体内部での記録が可能になった点です。これはお客さまからも様々な撮影現場で使うにあたり、もっと機動力が欲しいということでご要望が強かった点でした。
大庭:『VENICE 2』では、8Kのイメージセンサーを搭載しているため、扱うデータ量も、6Kセンサー搭載の『VENICE』に対して約2倍に増大します。さらに筐体サイズが小さくなるため、電力を削減しカメラの内部に熱がこもらないように、どう放熱効率を見直すかが大きなチャレンジでした。
一例として、信号プロセスを単純化し、不要な回路を削減するほか、各種電圧生成の効率を改善しました。さらに空気の流路と放熱フィン(熱交換の効率を上げることを目的として、伝熱面積を広げるために設けられる突起状の構造)を見直し、熱源と放熱フィンの間の熱伝導率などを最適化するなど、さまざまな検討や工夫を重ねました。
その結果、内部の温度を下げることで、熱い気候や撮影条件でもより安心して使えるようになっています。
カメラの産みの親はお客さま
岡橋:他にも使い勝手を向上させるべく、お客さまの声をもとに、さまざまな改善を盛り込んでいます。例えば細かな点ですが、現場では外付けのマイクを使用していることが多い実態を反映して、『VENICE』では搭載していなかった内蔵マイクを搭載しています。
大庭:前機種ではイーサネットのコネクターをカメラオペレーター側に配置していましたが、撮影の際に邪魔になる、触れてしまって故障が心配など、改善の要望をいただいていました。そのため今回イヤホン以外のコネクターを、カメラオペレーター側に配置しないように変更しました。
このように『VENICE』も『VENICE2』も、すべてはお客さまの声がもとになっているので、ソニーの技術者ではなく、お客さまが産みの親と思っています。
変えないことも進化のうち
岡橋:またタイトなスケジュールの中、一瞬のチャンスも逃せない映画撮影の環境下では、現場でストレスなくカメラを使っていただけることが非常に重要です。
例えば、『VENICE 』『VENICE 2』に共通する8ポジション光学式ND(Neutral Density)フィルターという機能があります。レンズから入る光の量を減らすNDフィルターを8段階内蔵していて、ワンステップで交換が可能な仕組みです。天候が不安定な時や、日没時など明るさが変わりやすい時にも、外部フィルターの変更作業の必要なく、撮りたいシーンがすぐに撮れるのが画期的で一度使うと手放せないと言っていただくことも多い、大きな強みとなっている機能です。
進化させる機能がある一方で、こうした既に浸透している機能は踏襲し、お客さまの慣れ親しんだオペレーションを妨げず、快適に使っていただけることも、『VENICE 2』を企画する際に意識しました。
庄野:シネマカメラは、実際に撮影を行うカメラオペレーターやクリエイターの方々の感覚に刺さっていく必要があると思っています。カメラの画質や運用性の良さをしっかりお客さまに伝えるとともに、その会話の中から得た知見を積極的に製品にフィードバックしていく。さらにその過程で培った技術や機能を、より広いユーザー層に向けた製品にも展開していく、それが『VENICE 2』に求められている役割であり、私たちがやるべきことと考えています。
岡橋:有難いことに今回、販売前から生産を上回る多数の注文をいただきました。これまでに『VENICE』を使用し、信頼していただけたからこその結果と実感しています。実績を積み重ねることが今後につながっていくので、『VENICE 2』が使われる作品をもっともっと増やして、その映像を世界中のお客さまに楽しんでいただきたいと思っています。
大庭:他にも機能へのご要望が多数あり、『VENICE 2』が完成形ではないと思っています。今後もお客さまとの対話からヒントやエッセンスを抽出できるかが鍵です。コロナ下の状況は課題ですが、今後継承していく技術者にもどんどん現場に足を運び、製品開発に生かしていってほしいですね。
編集後記:
このインタビュー後、『VENICE』で撮影されていた「CODA(邦題:コーダ あいのうた)」がアカデミー賞で助演男優賞と脚色賞に続いて作品賞という3冠達成という嬉しいニュースが舞い込み、一同喜びを分かち合いました。
さらに、昨日4月7日に海外で発表した通り、販売を開始した『VENICE 2』の使用作品も次々に決まり、使用した撮影監督からもポジティブな声が続々と届いています。また『VENICE 2』としても、2023年初頭にバージョンアップを予定しており、さらなる機能拡張や進化を続けていく予定です!
私は以前『VENICE』が使われた映画の撮影現場を訪れたことがあります。
ソニーの映画制作用カメラ「CineAlta」のスローガンは、”Emotion in Every Frame”(一瞬のフレームに思いを込める)です。その名の通り、1コマ1コマに制作者の情熱が込められていることを体感し、衝撃を受けました。
コロナ禍で制作スケジュールが変更になるなど映画界にも大きな影響がありますが、現場の熱い想いを知ると、一人のファンとして応援していきたいと強く感じ、今まで以上に映画館で作品を楽しむようになりました。
先日は、日本映画がアカデミー賞の国際長編映画賞を受賞するという喜ばしいニュースもありました。ぜひ皆様も、映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか。