地域医療再生のために本当に必要なこと——高山義浩さん『地域医療と暮らしのゆくえ』を読む
高山義浩(たかやま よしひろ)氏は、福岡県生まれの医師、作家。1995年東京大学医学部保健学科卒業後、フリーライターとして世界の貧困と紛争をテーマに取材を重ねる。2002年山口大学医学部医学科卒業。2004年より佐久総合病院総合診療科にて地域医療に従事。2010年より沖縄県立中部病院において感染症診療と院内感染対策に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や緩和ケアの在宅医療に取り組んでいる。新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、2020年3月より厚生労働省参与。2021年9月より2023年3月まで沖縄県政策参与。2023年10月より内閣府規制改革推進会議専門委員。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『ホワイトボックス 病院医療の現場から』(産経新聞出版、2008年)など、多数。
世界の貧困・紛争・人権問題などの取材をしてきた作家であり、沖縄で地域医療の最前線で診療を続ける医師であり、厚労省や沖縄県の政策参与として国・自治体レベルでの医療・公衆衛生の体制構築にも携わってきたという稀有な人である。その高山さんの目から見て、今の日本の地域医療の現状とその未来はどう見えているのか。
引用したのは、「地域における医師の確保」を研究テーマにしているという早稲田大学の学生さんと一緒にビールを飲みながら語る高山さんの言葉である。何が医師確保のために重要なのか。そもそも、医師確保の前提となることがあるのではないか。
高山さんは、医師の勤務環境を改善することや、若手のキャリアアップを支援することはもちろん大事だが、一番大切なことは「患者さんから愛され、地域から信頼される病院をつくること」だという。そのためには、医師だけが頑張ってもだめで、むしろ、事務方やソーシャルワーカー、地域の窓口となるような人々の力が重要だと述べる。
最後にもう一つ重要なことが付け加えられる。それは「地域側」の役割だ。高山さんが以前から言い続けていたのが、医師の採用にあたっては、地域住民の意見を聞くべきということだ。とくに臨床研修病院では、研修医採用の面接官のなかに地域住民の代表を加えるべきだという。医師たちだけが先導して医師採用や病院づくりをしていては、地域との距離は開いたままになってしまう。研修医たちが「地域から選ばれた」という自覚をもち、地域は「研修医を選んだ」という責任を共有する。そして、病院関係者と地域住民の間でどのような研修医の採用を目指すかについて事前に検討することで、病院の将来ビジョンを形成する機会となるというわけだ。