大いなるフリ

Amazon Primeビデオの「三国志 Three Kingdoms」にハマっている。

三国志は、本当にいろんなことが学びになるのだが、まるでコントのように出てくる「フリ」が勉強になったので、真面目にここに記しておきたい。

曹操の勢いが増し、いよいよ曹操と、孫劉連合(孫権&劉備)の対決、レッドクリフへという場面のちょっと前の段階である。

孫劉連合を成立させるため、諸葛亮孔明が自ら呉に赴き、孫権を説得しようという流れで、呉から来た魯粛(この人は諸葛亮と周瑜の板挟みになる人である)が、諸葛亮に何度も何度も念を押す。

「何度も言いますが、主君(孫権)の前で、曹操の軍勢の数には決して触れてはいけませんぞ」

これを何と、3回も繰り返すのである。2回目のところで「しつこいなぁ、おそらくこれはフリだなぁ」と思うわけであるが、3回目のところで「これ明らかに逆パターンやるやつですやん!」と、それがフリであることが明らかになる。そして、予想通り、諸葛亮は孫権の前で「正直に申しましょう。曹操の軍勢は100万」と言ってしまうわけですね。これが、フリだと分かるから、面白さが倍増するわけである。

フリの教科書

フリという概念は、いわゆるお笑いで、ボケとツッコミという要素の次に、不可欠な要素として認識されている。

私の中でのフリの教科書と言えば、ダチョウ倶楽部である。かつての番組「SUPER JOCKEY」の中で熱湯コマーシャルというコーナーがあった。煮えたぎる熱々の風呂に、ダチョウ倶楽部の上島竜兵が入ろうとする。風呂桶のふちに乗っかって、後ろのリーダーやジモンに向かって「押すなよ!絶対に押すなよ!」という。これはフリなので、その言葉を聞いたリーダーたちは「分かったよ〜」と言いながら、思い切り突き落として、笑いとなるわけである。

こうして考えてみると、フリというのはいわゆる「型(パターン)」にのっとって、そのときに表面的に意味されていることの逆パターンが、その次に来るぞ〜という流れのことであることが分かる。だから、面白い。

「男はつらいよ」での寅さんにも、こうした「フリ」的なパターンがある。

「おいちゃん、それを言っちゃあおしめえよ!おれは出ていくよ!さくら、止めるなよ!」

毎度毎度の冒頭での、とらやでの喧嘩のシーン。おいちゃん(ときにはタコ社長)と喧嘩をした寅は、必ず妹のさくらに「止めるなよ!」と言いながら、止めてほしい、ほんとは行きたくないんだよというサインを出す。ここで、大体は「お兄ちゃん、行かないでよ」とさくらが止めるのだが、結局は、さくらが止めても行ってしまう流れになったり、さくらがまれに止めなかったりするわけである。裏の裏をかかれて、面白かったりする。

諸葛亮の「大いなるフリ」

それで、三国志の話に戻ると、諸葛亮孔明は、魯粛との口約束を破り、曹操の軍勢の実態を孫権に伝えてしまい、孫権および周りの家臣たちは、曹操に下ったほうが良いのでは、という降伏論が優勢になってしまう。しかし、これこそが諸葛亮の「大いなるフリ」なのであった。

その後、孫権に「貴公の主君は、どうなされるのか。曹操に下るのか」と聞かれ「我が主君は漢室の末裔。死んでも曹操のような逆賊には下りませぬ」と言い切り、孫権を怒らせてしまう。それでも、諸葛亮は動じない。その後、慌てた魯粛が「なぜ、あんなことを言うのですか」と尋ねると、諸葛亮はすまし顔でこう答えるのであった。「せっかく曹操に勝てる秘策があるのに、それをお尋ねにもならない」と。

諸葛亮が、まずは相手を怒らせるようなことを孫権の前で言ったというのは、ある意味、一種の衝撃(インパクト)を与える作戦なのである。それでバチンと相手の頬を叩き、感情を揺さぶり、相手の価値観や見方を根底から覆すための「大いなるフリ」なのである。諸葛亮の本当の狙いはもちろん、孫権との連合を組むことであるから、相手を怒らせるというのは真逆の行動のように見える。しかし、その後必ず、その真意を探りに来ると読んでいた諸葛亮の知恵と勇気が見事に発揮されている場面である。

人生において、何か大きなことを成そうとするとき、我々は諸葛亮のような「大いなるフリ」をやってみることも必要かもしれない。


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