二つのウェルビーイング―地域と幸福感と寛容性の関係
昨日に続いて、コミュニティのウェルビーイングの話である。
ウェルビーイングには大きく分けて二つの種類がある。ヘドニック・ウェルビーイング(hedonic well-being)と、エウダイモニック・ウェルビーイング(eudaimonic well-being)だ。
横文字すぎて意味が分からないと思う(笑)。
ちょー簡単に言うと、ヘドニック・ウェルビーイングは「心地よいという意味で幸福かどうか」であり、エウダイモニック・ウェルビーイングは「人生に意味(意義)を感じるか」という状態である。
ウェルビーイングは、心理学の分野では「幸福」に関する研究から発展した。幸福の形態は一般的にへドニアとエウダイモニアに分けられる。ヘドニア(Hedonia)は「快楽」とも訳され、欲求充足や感情との関わりが深い幸福の形である。一方、エウダイモニア(Eudaimonia)はアリストテレスが『ニコマコス倫理学』で説いた幸福であり、「本当の自己」や「ダイモン(Daimon:心の内なる超越的存在)」に従って生きる善い人生が、エウダイモニアとされる。
ヘドニックな幸福は分かりやすい。欲求が満たされ、ポジティブな感情(心地よい、嬉しいと感じる)にいるような状態である。
エウダイモニアはちょっと分かりにくい。本当の自分?善い人生?僕が僕であるために(by 尾崎豊)?エウダイモニアの定義は研究者でも異なっているらしく「人生の意味」や「自己成長」あるいは「潜在的能力の発揮」といったことで定義されているようだ。自分の人生に満足を感じているとか、自分の日々の仕事にやりがいを感じているとか、そういう意味だろう。
「地方創生のための寛容性と幸福の分析」という論文では、日本全国調査で、ヘドニックとエウダイモニックな幸福を分けて分析している。例えば、へドニックな幸福は結婚ししている人たちや子どものいる人たちが高い。エウダイモニックな幸福は、自営業・フリーランスの人たちのエウダイモニアが高い一方、専業主婦・主夫はエウダイモニアが低い傾向にあった。つまり、ヘドニックな幸福は、人間関係や家族構成との関係性が強く、余暇や健康状態からの影響も大きい。一方、エウダイモニアは特に仕事の領域や就業状態との関連が強そうだ。
この論文では、都道府県ごとの幸福度を、ヘドニックな幸福とエウダイモニックな幸福という観点から分析し、とても興味深い知見を論じている。例えば、ヘドニックな幸福もエウダイモニックな幸福もどちらもダントツ高い県が沖縄県と奈良県である。この二県はスーパーウェルビーイングな県と言えるだろう。両県は、一人あたりの県民所得はそれほど高くないのに、平均寿命が長いという特徴がある。そして、もう一つ重要な特徴が地域の「寛容性」が高いということである。
地域の「寛容性」とは、簡単に言うと、人々の多様な生き方に対して地域がどこまで寛容かどうかということである。この論文では、寛容性を「女性の生き方」「家族のあり方」「若者信頼」「少数派包摂」「個人主義」「変化の受容」に関連して測定している。つまり、ダイバーシティに対する価値観、あるいは異なる他者に対する態度と言ってもよい。都市部と地方に大雑把に分けると、都市部のほうが寛容性が高く、地方のほうが低い。しかし、沖縄県と奈良県は、寛容性も高かったのである。
つまり、地域の「寛容性」は、地域住民のウェルビーイングと大きな関係がある。寛容性が高い都道府県は幸福度も高いので、離脱意向(他の都道府県に移住したいかどうか)が低いという結果が出ている。
スーパーウェルビーイングな沖縄県と奈良県に学ぶとすれば、所得が低くても、心地よく、自分らしい充実した人生を過ごしている人が多く、他者に対して寛容性が高い地域である。この「他者への寛容性」は、自殺希少地域(自殺率が低い地域)を研究した岡檀さんの研究結果でも「監視ではなく関心を持つ関係性」や「ゆるやかな紐帯」といった表現で、表れていた。この話は長くなりそうなので、また次の話で。
参考文献
有馬雄祐. 地方創生のための寛容性と幸福の分析.(地方創生のファクターX
寛容と幸福の地方論). LIFULL HOME'S 総研. p.96-115, 2021. https://www.homes.co.jp/souken/report/202108/
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