三百四十九話 消えてなかった?

「ごきげんよう」「神のご加護を…」

朝の清冽な空気の中、女子生徒の挨拶がこだまする…。

学校の校門をくぐると、そこは身も心も清らかな乙女の園…。

そう、ここは神田ミカエル女学院…。

中庭の大天使ミカエル像が、通う女子生徒たちを守護している…。

天界の大天使ミカエルは、ここに通う女子生徒たちを見て何を思うか…?

その御心は、まさに神のみぞ知るということなのだろう…。

ここに三年間通えば、お淑やかなお嬢様になって卒業できるという…。

制服は翻さないように、静かに歩き…。

清廉潔白で文部両道、それでいて純粋無垢な心を持った乙女たち…。

この学院には、そういった生徒しか存在しないのです…。

否、今日から新たに校門をくぐった、たった一人の生徒を除いて。


冬休みが翌日に差し迫ったとある日…。

以前、助けたことがある宮園花子さんに…。

寮に遊びに来ないかと誘われた私…。

寮の中は結構薄暗くて…。

どうにか花子さんの住む3階の部屋に辿り着いた…。

花子さんは私とクリスマスをお祝いしたかったらしい。

結構前にクリスマスは終わっていたのだけれど…。

紅茶とケーキを用意してくれた花子さん…。

クリスマスのチキンが売ってなかったというので。

山盛りの唐揚げを揚げてくれた花子さん…。

ちょっと味が濃いけれど、すごい美味しい…!

ご飯も出してくれて、たらふく唐揚げを食べた。

そのあと、ケーキも食べ紅茶も飲み寛ぐ私…。


何か大事なこと忘れているような?

紅茶を飲んで、尿意を催した私…。

私は花子さんにそう言い、トイレを案内してもらった…。

トイレに入り下着を脱いで、便座に腰掛ける…。

そのとき、ハッとして私は思い出した…。

花子さんが生と死の狭間の存在になったので…。

グレモリーは花子さんを助けてとDMに書いてあったのである。

寮の部屋に来る前に、花子さんの身体は半透明になっていて…。

今にも消えて無くなりそうな、儚げな雰囲気を醸し出していたのだ。

早く助けないと、本当に消えて無くなりそうな花子さんの身体…。

私は花子さんを救出することに決めたのであった…。

以前にも花子さんを助けたことがあるのだけれど…。

その時も生命エネルギーが低下していた花子さん…。

その花子さんに私は私のおしっこを飲ませたのだった…。

何を言っているか、さっぱりわからないだろうけど…。

私のおしっこには魔力が凝縮されているらしく…。

おしっこを飲んだ花子さんは、どうにか助かったのである…。


今回も私のおしっこを花子さんに飲んでもらって…。

生命エネルギーを回復してもらおうかなと思う…。

それには花子さんの元に、おしっこを持っていくアイテムがないと。

おしっこを入れる容器がないかな…?

私の服のポケットの中にペットボトルがあったのを思い出した…

どうにかおしっこを入れることに成功した私…。

私はすぐに花子さんの元にペットボトルを持っていったのである…。

ペットボトルを、花子さんに渡した…。

これを飲んで…!と言うわけである…。

花子さんは何の疑いを無く、黄色い液体を飲んでいく。

飲んでいる途中、??って表情になる花子さん。

それでも、花子さんはおしっこを全部飲み干してくれた…。


私は花子さんの身体を見つめていたのだけれど…。

半透明の身体が、少しは輪郭が濃くなった気がするけれど…。

あまり変わっていない気がしてきた…。

花子さんは私の顔をじっと見つめている…。

なんと、花子さんはそろそろお迎えが来たという…。

花子さんは涙を流しながら微笑んでいる…。

花子さんの瞳からは、一筋の涙が流れ始めた…。

花子さんの半透明な身体が、透明になっていって…。

透明な身体の端々が、光の粒子になっていった…。

花子さんは私と過ごした時間が楽しかったという。

私もいつしか涙が溢れ出ていた…。

花子さん!消えちゃダメだよ!いなくならないで…!

花子さんは、また会いましょうと言って消えつつある…。

そして、花子さんの身体は光の粒子になり虚空に消えていった…。

どうして…。こんなことに…。

ううぅぅうぅ、私、花子さんを救えなかった…???


花子さんが消えて、花子さんの着ていた制服が床に落ちた。

私はその制服を抱きしめて、涙を流した…。

花子さんなんで消えてしまったの…?

私のおしっこが足りなかったのかな…?

私は涙を流し続けてたけれど…。

自分でも何をしているかわからなかったのだが…。

花子さんの作ってくれた唐揚げをリュックに入れ始めた。

花子さんがせっかく作ってくれた唐揚げ…。

このままにしておくのはもったいないと思ったのか…。

気づくと、リュックに入れていたのである…。

そして、花子さんの制服を持ってその場を後にしたのである。


私は泣きながら寮を出て、グレモリーの家を目指した…。

やっとグレモリーの家に着いて、玄関を開ける…。

「おかえりなさいませ!ご主人様…?」

グレモリーが元気よく出迎えてくれたけれど…。

私が泣いているのに気づいて…。

「どうしたんですか!?ご主人様!?」

すごいびっくりしているグレモリーだった。

「花子さんが消えちゃた…。花子さんのこと救えなかった」

私は泣きながら、説明した…。

どうしたの!?ノアっち!?

と、藍さんも出てきてびっくりしている…。

私は花子さんのこと助けられなかったと泣くばかりだ…。

とりあえず、私を家の中に入れるグレモリー…。

「ご主人様、落ち着いてください…」

花子さんが消えてしまったのだから、落ち着いてなれないよ…。

「ご主人様、よく見てください。涙を拭いて…」

グレモリーは私の涙を拭いてくれた…。

私の視界には、いつもの食卓が見える…。

そこに、呑気にカップ麺を啜っている人物がいた…。

身体は半透明のまま、服も着ないで麺を啜っている。

その人物はこちらに気づいて、微笑んだ…。

「あ、お姉さま!先程ぶりですね!ごきげんよう!」

なんとそこには、さっき消えたはずの花子さんがいたのである。

「消えかけた花子さんの魂をここに召喚して固定したのですよ」

グレモリーがドヤ顔で説明してくれるけど、よくわからなかった。

わからなかったけれど、花子さんがここにいる…。

それは間違いようがない事実だった…。

「花子さんをアストラル体にしてここに固定したのですよ」

グレモリーがまた説明してくれる…。

アストラル体?何それ?でもなんでもいいよ。

花子さんが消えなくてよかった…。

本当によかった…。

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そのさき@小説
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