慢性B型肝炎に対するsiRNA薬の第2相試験 (NEJM)

Xalnesiran with or without an Immunomodulator in Chronic Hepatitis B | New England Journal of Medicine
要旨
慢性B型肝炎の患者においては、Peginterferon alfa 2aの48週間投与やヌクレオチド/ヌクレオシドアナログの生涯の投与が標準治療であるが、functional cureを達成できる患者は少ない。今回、HBVの表面抗原を標的とした皮下注射のsiRNA治療薬であるXalnesiran、及び免疫調整薬であるRozutolimodやPeginterferon alfa 2aとの併用の有効性と安全性を調べる試験が行われた。
本試験は国際共同無作為化非盲検第2相プラットフォーム試験であり、対象患者はヌクレオチド/ヌクレオシドアナログによる治療によりウイルスが抑制されている慢性B型肝炎の患者であった。参加者は160人であり、Xalnesiran 100mg群、Xalnesiran 200mg群、Xalnesiran 200mg + Ruzotolimod (150mg) 群、Xalnesiran 200mg + Peginterferon 2a (180μg)群、ヌクレオチド/ヌクレオシドアナログ群の5群に1:1:1:1:1に無作為化された。治験薬は48週間投与された。全ての参加者において、ヌクレオチド/ヌクレオシドアナログの投与は、事前に規定された中止基準を満たさない限り投与された。
主要評価項目は、24週時点におけるHBsAgの消失であったが、Xalnesiran 100mg群では7%、Xalnesiran 200mg群では3%、Xalnesiran 200mg + Ruzotolimod群では12%、Xalnesiran 200mg + Peginterferon 2a群では23%、ヌクレオチド/ヌクレオシドアナログ群では0%に見られた。HBsAgの消失が見られた患者は全て、スクリーニング時のHBsAgが1000 IU/ml未満の患者であった。また、副次評価項目はHBsAgのセロコンバージョンであったが、Xalnesiran 100mg群では3%、Xalnesiran 200mg群では0%、Xalnesiran 200mg + Ruzotolimod群では3%、Xalnesiran 200mg + Peginterferon 2a群では20%、ヌクレオチド/ヌクレオシドアナログ群では0%に見られた。Grade 3/4の有害事象の発生率は、Xalnesiran 100mg群では17%、Xalnesiran 200mg群では10%、Xalnesiran 200mg + Ruzotolimod群では18%、Xalnesiran 200mg + Peginterferon 2a群では50%、ヌクレオチド/ヌクレオシドアナログ群では6%と稀ではなかった。
結論として、ヌクレオチド/ヌクレオシドアナログによる治療によりウイルスが抑制されている慢性B型肝炎の患者において、HBVの表面抗原を標的とした皮下注射のsiRNA治療薬であるXalnesiranと免疫調整薬の併用の48週間投与は、一定の割合の患者群でHBsAgの消失をもたらした。

感想
HCVに関しては直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場とともに根治治療が多くの症例で可能になったが、これは2010年代の医学的進歩の中で最も大きいものの一つと私は思っている。
しかしながら、HBVに関してはこのような根治療法はまだ出現しておらず、現状、世界レベルでは3%が感染しており、毎年HBVが原因で110万人が死亡しているとされる。HBVの体内からの除去が難しいのは、HBVのゲノムがcovalently closed circular DNAを形成したり、ウイルスDNAが宿主ゲノムに取り込まれたりすることがあるためである。現在の考え方では、ウイルスゲノムの体内からの完全除去ではなく、functional cure (治療薬終了後もHBV DNAやHBsAgが検出されないこと)であり、実際functional cureが達成されれば肝線維化の進行は抑制される。
しかし問題は、現在の標準治療である、ヌクレオシド/ヌクレオチドアナログではこのfunctional cureの達成も望めないことである。Peginterferon 2aはfunctional cureを達成できる可能性はあるが、副作用が非常に多いため、単独療法としてはあまり使用されていない。
今回の試験で使用されたXalnesiranはHBVのS抗原領域を標的とするsiRNAであり、HBsAgの産生を直接阻害する。ただ、以前の第1相試験で、Xalnesiran単独投与ではfunctional cureは期待できないことが示されていた。今回は、Peginterferon 2aや、TLR7アゴニストであるRuzotolimodとの併用に関しても評価されたが、特にPeginterferon 2aとの併用ではfunctional cureが20%以上に見られている。Ruzotolimodとの併用でも、Xalnesiran単独に比較するとfunctional cure達成率は高いようである。
一方で、有害事象の頻度も、特にPeginterferon 2aとの併用ではGrade 3/4のみでも50%とかなり高くなっている。Ruzotolimodとの併用では有害事象の頻度はXalnesiran単独と比較してあまり上昇していないようにも見える。
今後、別のレジメンの検討や、より長期の結果など、必要なデータはまだまだ多いが、HBVのfunctional cureを達成できる薬剤としてのXalnesiranの今後に期待したいところである。

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