2型糖尿病・慢性腎臓病合併患者に対するSemaglutideの有効性は、SGLT2阻害薬の併用の有無で変化するか (Nature Medicine)
Effects of semaglutide with and without concomitant SGLT2 inhibitor use in participants with type 2 diabetes and chronic kidney disease in the FLOW trial | Nature Medicine
要旨
2型糖尿病および慢性腎臓病を合併する患者は、腎不全および心血管(CV)合併症のリスクが高い。GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬は、それぞれCVおよび腎臓イベントを減少させることが示されているが、両者を併用した場合の効果は不明である。Semaglutideの2型糖尿病および慢性腎臓病を合併する患者に対する第3相試験であるFLOW試験の参加者は、Semaglutideとプラセボに無作為化される際、ベースラインでSGLT2i使用者(N=550)または未使用者(N=2,983)に層別化された。FLOW試験の主要評価項目は、腎不全、推定糸球体濾過率の50%以上の低下、腎関連死、心血管死の複合エンドポイントであった。主要評価項目の発生率は、Semaglutide群でプラセボ群と比較して24%低かった(95%信頼区間:34%、12%)。主要評価項目をSGLT2iのベースラインでの服用の有無で比較すると、SGLT2iを服用していた参加者では、Semaglutide群では277人中41人、プラセボ群では273人中38人に発生した(ハザード比1.07、95%信頼区間:0.69~1.67、P=0.755)。一方で、ベースラインでSGLT2iを服用していなかった参加者に関しては、Semaglutide群では1,490人中290人、プラセボ群では1,493人中372人に複合エンドポイントが発生した(ハザード比0.73、0.63~0.85、P<0.001、Pinteraction 0.109)で発生した。また、3つの主要副次評価項目が事前に定義されていた。eGFRの勾配(ml/min/1.73 m2/年)に関しては、Semaglutide群とプラセボ群の群間差はSGLT2iサブグループでは0.75(−0.01、1.5)、非SGLT2iサブグループでは1.25(0.91、1.58)、Pinteraction 0.237であった。心血管死、及び全死亡に対するSemaglutideの有益性はSGLT2iの使用に関係なく同様であった(それぞれPinteraction 0.741および0.901)。また、腎転帰低下に関するSemaglutideの有益性も、ベースラインのSGLT2i使用の有無にかかわらず一貫性が見られた。
感想
GLP-1作動薬であるSemaglutideの、2型糖尿病・慢性腎臓病合併患者に対する有効性を示したFLOW試験の事後解析。このFLOW試験は3500人以上を登録し、3.5年近くにわたって追跡した大規模な試験であり、Semaglutideが腎複合エンドポイントの発生率をプラセボ比較で24%低下させたことが示されている。
Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes | New England Journal of Medicine
GLP-1作動薬とSGLT2阻害薬はともに慢性腎臓病に対する有効性が示されているが、おそらくその機序は異なる。SGLT2阻害薬の方が機序はわかりやすく、おそらく利尿作用を介した用量負荷の低減→糸球体内圧負荷の低下、及び近位尿細管細胞の作業負荷の減少がメインなのだろう。これに対して、Semaglutideの腎臓に対する有効性のメカニズムは複雑である。体重減少やそれに伴う血圧の低下などの代謝パラメーターの改善、糸球体の血行動態の改善作用、抗炎症作用、など、さまざまな可能性が考えられる。
今回の論文の主題は、Semaglutideの効果が、SGLT2阻害薬の併用の有無で差があるかどうか、であるが、結果の解釈は難しい。相互作用に関するPが0.05を超えていることから、Semaglutideの効果が、SGLT2阻害薬の併用の有無で変化がない、というのが著者らの解釈と思われるが、数字的には、Semaglutideの効果の一部がSGLT2阻害薬を併用している患者ではキャンセルされる、ということになろうかと思われる。SGLT2阻害薬を併用している患者が少ないので、何とも言えない、のかもしれない。
もし後者の解釈をとるのであれば、Semaglutideの効果の一部がSGLT2阻害薬併用でなぜキャンセルされるのであろうか。血糖を下げる、という現象を除くと、作用メカニズムにオーバーラップがあるようには見えないので、SGLT2阻害薬の服用で既に腎関連リスクが十分に低下していたから、という解釈になるのかもしれない。これを検証するには、2型糖尿病・慢性腎臓病合併患者でSGLT2阻害薬を既に服用している患者を数千人集め、数年間の長期追跡を行う試験を実施する必要があるが、たぶんそれを実施する資金を出す会社はないだろう。
ということで、個人的解釈では、2型糖尿病・慢性腎臓病合併患者でのSemaglutideの腎臓に対する効果がSGLT2阻害薬の併用の有無で変化がないかどうかはわからない、という何とも決まりの悪い感じでおいておくしかないのだろう。