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【妄想供養:第1回】できないロボット

 家電メーカー在籍中の2000年頃、研究部門で開発していたコミュニケーションロボットのデザインを担当する機会がありました。

 提案したのは「できないことを明らかにするデザイン」です。

 ロボットは他の工業製品に比べ、能力を過大評価される傾向にあります。「走れないの?」「物を運べないの?」なんかは序の口で「飛ばないの?」「目からビーム出ないの?」みたいな無茶な質問をされることが当時はたくさんありました。
 それができないとわかると「なあんだ」とガッカリされて、他のスペックやデザインまでもが低く評価されることも少なくありませんでした。なんだか理不尽な話ですよね(苦笑)。
 また、それまではクマのぬいぐるみにメカを仕込んだロボットで研究されていたのですが、海外の展示会などに持って行くと本物のクマみたいにゴツいおっさんが「オー!キュート!!」とか言ってぎゅうっと抱きしめて、内蔵メカがバキバキと壊されてしまうこともあったそうです。そもそもぬいぐるみ自身がそういう関係性をもった存在ですので、仕方ないと言えば仕方ないんですが、やっぱり理不尽です(笑)。

 そこで、以下のような「できないこと」を明らかにするデザインで、過度な期待とガッカリ感、そして理不尽な破損を回避する策を提案しました。

・足を投げ出して座っている→移動できません
・マニピュレーター(手指)がない→物を持てません
・アホ可愛い顔立ち→高度な知能はありません
・精密機械の風情→手荒に扱えません

 逆に「できること」は強調して、関係性をより明確にしました。

・目、耳、口の要素がある→見る、聞く、話す、つまりコミュニケーションができそう
・腕が細長く方向性がある→握手やジェスチャーができそう
・胸にモニターがある→画像を伴う情報提供ができそう

 調子に乗ってイメージビデオまで作成しました(ちなみにオリジナルBGMはベン・E・キングの『STAND BY ME』です)が、残念ながら実機製作には至らず、非稼働のモックアップに留まってしまいました。予定された仕様は今とは比べものにならない非力なものでしたが、実機が発表されていれば相応の話題になったかもなあ、と今でも残念に思います。

 それでも「できないことを明らかにするデザイン」は、後に私がデザインを担当したunibo(ユニロボット社)やTV共同視聴ロボット(NHK技研)で成就していますので、実は「できないロボット」の妄想供養は既に済んでいるかもしれませんね。


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