ドキュメンタリーの感想「GREAT PHOTO, LOVELY LIFE/小児性愛者の祖父を持って」(2023)
原題:Great Photo, Lovely Life
https://www.amandamustardphoto.com/
アメリカ出身のフォトジャーナリスト、アマンダ・マスタード(Amanda Mustard)が、故郷のペンシルベニアに帰って、実の祖父が犯してきた罪に向き合うドキュメンタリーです。
アマンダの祖父ビルは小児性愛者で、接骨院で働きながら、幼い少女たちに性的暴行を繰り返し、自分の家族の女性たちにも、性的暴行をはたらいてきました。一度、裁判で有罪になった後は、他の街へ引っ越して、そこでもまた犯行を続けていました。このようにビルは、自分の罪が明るみに出て、訴えられると、他の街へ引っ越すという行動を繰り返して、逃げ回っていました。ビルは、故郷ペンシルベニアでは裁判で有罪になり、その後、住む場所を転々とする中で、ようやく落ち着いたフロリダでは、少女を襲い、とうとう服役することになりました。
そんな祖父ビルの人生と犯してきた罪を、孫であるアマンダが、母デビ(ビルの娘)と共に掘り下げていきます。アマンダの家族はもちろん、祖父がそういう人間だということは知っていますが、家族の秘密として扱ってきました。それが彼らなりの現実への対処方法だったのでしょう。
アマンダが家族への聞き取りを進める中で、叔父ポール(ビルの息子)に、「この家族ってどんな家族?」と尋ねるシーンがありますが、ポールが「機能不全家族」と答えたのが印象に残っています。アマンダの母デビも、叔父ポールも、ビルの子供として、父が罪を犯してきた人間だということは知っているのです。父ビルによって、自分たち一家が翻弄され、バラバラにされたことを感じているのです。
それでも、皆、知っているけど、皆、何も出来ないという状況がずっと続いてきました。肝心のビルが自分の非を認めず、反省も謝罪もしない以上、家族たちは何も出来ないでいました。
祖父の妻(アマンダの祖母)は、夫が裁判で有罪になっても、一緒に住む場所を転々とし、最後まで離婚することはありませんでした。アマンダの祖母は、夫がどういう人間であるかを知っていながら、夫を庇っていました。でも、ビルは、妻の本名が気に入らず、周囲の人には別の名前で呼ばせていたのに。そんな人なのに、妻として夫についていくことを祖母は選びました。恐らく、祖母の年代の女性たちがかつて教えられてきたであろう「女性とはこうあるべき」、「妻は夫に従うべき」という教えを捨てられなかったのでしょう。だって、そう言われて育てられてきたのですから。
ドキュメンタリーの終盤で、年老いて身体が弱り、死が近づいている祖父に、彼が犯した罪と、彼が傷つけてきた人たちからのメッセージを聞かせるシーンで、アマンダは泣き出してしまうのですが、私も見ていて苦しかったです。
祖父が死んでしまってからでは罪を認めさせることができなくなるからとわかっていても、もうすぐ死ぬとわかっている老人に、しかも自分の実の祖父に伝えるべきメッセージがこんなメッセージだなんて。祖父の人生の最後に、孫としてするべきことがこんなことだなんて。こんな祖父との最後の別れ方を一体、誰が望むというのでしょうか。
でも、これが祖父が犯してきた罪の結果です。彼は、死ぬまで、公式に被害者たちに謝罪することも、反省の言葉を述べることも結局ありませんでした。でも、そんな祖父の孫として生まれてきたいと誰が思うでしょうか。祖父の罪に向き合い、当時のことを調査し、被害者たちと語り合う孫。たまたま、小児性愛者の孫に生まれてしまったことで、アマンダは、祖父の罪と、長年、家族たちが抱えてきた秘密に向き合うことを課せられました。
ビルというたった一人の人間のせいで、大勢の人間の人生が狂いました。被害者たちはもちろん、彼の家族も。でも、張本人のビルは、自分の罪と向き合わない。服役こそしましたが、反省することも、被害者たちや家族に謝罪することもありませんでした。祖父ビルがそういう人間なのは、孫アマンダの罪でも責任でも無いですが、彼女が調査を進め、被害者たちと連絡を取り、自分の母と姉とも話し合い、物事を前へ進めようとしたのは、同じ家族であるアマンダにしかできなかったことなのかなと思いました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?