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日記「個人経営の本屋に行く」(2024/11/13)


県立図書館で本を借りたあと、友達と別れて細道を進む。今日、初めて個人経営の本屋へ行く。私の知っている「本屋」と言えば、地元の小さい書店、レンタルビデオ販売に付随したおまけみたいな本屋、実家から電車で980円・市電へ乗り継ぎ180円かけてようやく辿り着く天文館の丸善とジュンク堂、ショッピングモールの隅に追いやられた本屋。その中に「個人書店」という場所はいつも無かった。

小原晩のエッセイを求め(熊本ではこの本屋にしか入荷していないらしい)、Googleマップの指示に従い、てくてく歩く。
運良く散歩中の柴犬に出くわす。神器(フン用ポリ袋、犬用ブラシなどの超便利グッズ)を入れたお散歩用バッグも、柴犬をかたどったキャラクターがどどんと載っていて素敵。めっちゃ愛されてんじゃん、と無邪気な柴犬にほほ笑みかける。のどかな夕暮れで素晴らしい。

2階に店舗を構える書店。ここらへんかと見上げてみると、ある窓に、探していた店名のウィンドウサイン。窓の内側に、「営業中」の電飾が点っている。ただどこから入ればあの店に辿り着けるか確信を得られず、しばし悩んだ後、らせんのようなマンション階段を踏みしめた。そういえば住所の末尾には、20‪✕‬号室と書かれていた。マンションの一室を改造した店なのだろうか。それなら合っているはず……果たして、2階に辿り着いてすぐ、こじんまりとした本屋は目の前に現れた。
扉を押し開くと、予想以上にギギ、と軋んだ音がした。おっかなびっくり店内を窺う。四方の壁のうち、2面が書棚で、1面がレジ。私に気づいた店主が奥から出てきて、私は顔を合わせると少し気まずいかなと思い、店主の挨拶になんとなく微妙な会釈を返したか、返してないか……正直、覚えていない。個人書店ってやっぱりかなり緊張する。敷居が高いと言われがちなんだと思う。
コンパクトで可愛らしい本屋、というのが第一印象だった。本の数は大型書店にも、地元の小さい書店にも到底及ばなかったが、つまり、それは選びに選び抜かれた本だということだ。素朴な書棚が、いきなり巨大に思えてくる。
店主に声を掛けられてもすぐに反応できるように、片っぽのイヤホンはあらかじめ外していた。すると、店内で流れている曲に聞き覚えがあったので、思わず耳に神経を集中させて、推理する。すぐに誰の曲か思い出せなかったから、恐らく1、2回しか聴いたことがないもの。それでも記憶に残るくらいなので、直近に聴いたものか。多分だけど柴田聡子の新譜だ。『Your Favorite Things』 。これ、めっちゃ良かったよな~……!!店主のセレクトに敬意を払って私は片耳につけたままだったイヤホンをはずし、店内のBGMをよ~く堪能した。

書棚を見巡っている間、個人書店とはこんなに色があるものなのか……とただただ興味深かった。本屋というよりも、誰かの部屋に置かれた本棚が一般公開されているという方が近い気がする。それくらい統一されている。共通する何かを感じる。目当ての書籍(小原晩『これが生活なのかしらん』)を手に取った後も、ワクワクはずっと止まらなかった。

筒井功『潮来を、なぜイタコと読むのか 難読地名の謎』を見かけた時は嬉しかった……。ここで会えた嬉しさがある。(多分)前作の『日下を、なぜクサカと読むのか』は、ツイッターで見かけてから買おう読もうと思って、忘れないようにずっとブックマークしていたのだった。予算の都合で買えず……。いつか読みたいし、読むならここで買いたい。
それから、ZINEが売ってる……。こういう冊子って(イベント等の)現地販売か、通販でしか買えないと思っていたので、実際に手に取って中身を読めることが嬉しい。最近、偶然「日記屋 月日」の通販ページを見ていたため、「これ見たことある!」という日記本との思わぬ出会いもあった。気になったものをぱらぱらと捲る。『誕生日の日記』。古賀及子のエッセイやっぱり好きだな。ここ数日彼女のnoteを開き、無料で公開されている日記を読んでは、「もっと読みた~い」と思いながらウィンドウを閉じる……というのを繰り返しているので、いずれ必ず書籍を買おう。
ここでは、蟹の親子『増補版 にき 日記とはなんなのか』を手に取った。買う予定は無かったけど、おもしろそうだったから。書店はこういう出会いがあるから楽しい。

コミックのコーナー。宮崎夏次系がある……。ずっと気になっているけれど、SNSで公開されている話しか読んだことがなかったため、試し読みする。めちゃくちゃおもしろい……。買いたい泣。今月は我慢する。panpanyaがあったら天を仰いでしまうところだったけれど、(本当は紙で欲しかったが、つい先週唐突に読みたくなって、我慢できずに電子で買ってしまったため)恐らく無かったはず……! あったら絶対に買っていたので危なかった。

散々堪能した後、レジにてお会計。この書店の営業日誌はたまにちびちび読んでいたので、今までぼんやり靄がかっていた存在の店主とようやく会話をする。
レジの傍らに積まれていた、小原晩『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を勧められる。

そうなのよ これ 店内でZINEを見かけたけど今月商業で書き下ろし含めて出版するって……

今日発売日だったんだ……

来月分のクレカの支払いを考慮して一旦は断るが、会計中、いや後から買うなら今買っても全然一緒じゃんか、という思考になり、申し訳なくも「やっぱり買っていいですか……」と購入を申し出る。二度手間で大変申し訳なかった。なんか自分っていつもこうだな、と心にやや影が落ちる。それでも三冊分の本の重みの嬉しさに心の天秤がぐらりと傾く。気分がナナメにならないまま、ありがとうございました、としっかり言って退店できた気がする。

一冊しか買って帰らない予定だったのに、店を出たら、私は三冊の本を抱きかかえていた。何故? こんなに本を買ったのは久しぶりだ。これが三年坂の蔦屋だったら、多分、私は我慢して一冊で収めていただろう。本屋ではかなり慎重派になってしまう方の人間なのだが、それはいわゆる大型書店に限った話で、個人書店で私は暴れてしまうのかもしれない。最高。また来よう。

空はすっかり暗くなっていた。A系統の市電に乗るため、電停へ急ぐ。


〈購入した本〉
小原晩『これが生活なのかしらん』、『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』
蟹の親子『増補版 にき 日記とはなんなのか』

訪れた本屋……古本と新刊 scene


森都心の図書館で本を借りた後、5階のマックでセットメニューを注文した。ガーリックオニオンダブチ、フライドポテトM、マックシェイクストロベリー。明日に響きそうなジャンクさ。
窓に面した席でハンバーガーを貪り食う。夜の闇に煌々と輝く光に、地元との明確な差を感じて泣きたくなる。最近、地方における文化資本の貧しさについてよく考える。よく考えて、どうにもならなかった環境に凹み、考えるのを辞める。私は享受できなかった側の人間だ。ここも十分地方だけれど、地元からすればずっとずっと都会だ。なんたって個人書店がある。うちにはなかった。「うち」という言葉を地元に対して使ってしまうのが嫌だ。今初めて思った。「うち」に入り込まないでほしい。アイデンティティの形成に生まれ育った土地が介入してくることがあまりに憎たらしくて、本当に有難い。愛憎という感情を初めて抱いたのは、ほかでもない、故郷に対してだった。

個人書店で本を買うこと。アミュプラザの5階のマックで夜ご飯を食べること。大人になって自由さを感じる反面、でもこういうことを幼い頃から経験してきた子達もいるんだよな、と思考に影が射す瞬間がある。豊かさが眩しい。

ポテトを食べながらページを捲ると、綺麗な紙面に二度と取れない脂のシミがついてしまうとこの時初めて気がついた。本を読むならコメダしか。でも町にコメダがないのにかなり腹が立つ。あとバーガーキングも。安い回転寿司屋も。

帰りのバスでは車酔いして、目を瞑りながら帰った。


別の場所で書いてたけどひさびさに日記書いた記念にnoteにうつる ✌️

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