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「ハンニバル」season1
大ヒットした映画『羊たちの沈黙』から原作小説にハマった。
『レッド・ドラゴン』や『ブラック・サンデー』でますますトマス・ハリスすげ〜!ってなったところへ『ハンニバル』出版。
喜びいさんで手に取ったけれど、なんとした事か、読み進むほどに気持ち悪すぎてツライ!
「どないしたんやトマス!?」と首をひねっていたら町山智浩さん(有名映画解説者)が教えてくれた。
映画『羊たちの沈黙』でクラリスを演じたジョディ・フォスターに萌えのぼせたトマスが彼女を念頭に置いて書き上げたのが『ハンニバル』だったと。
そこでドン引きしてハンニバルものからは遠ざかり、20年の時が流れた・・・。
007『カジノロワイヤル』で演じた悪役がハマりすぎのクールで優雅なイケオジ、マッツ・ミケルセンが活躍の場を広げるにつれ、ミーハーの私もその魅力に吸い寄せられていき、ファンタスティック・ビーストシリーズのグリンデルヴァルトをその頂点として崇め奉る次第。
特にグリンデルヴァルトとダンブルドアのブロマンス関係にしばらく遠ざかっていた萌え心が掻き立てられ、こりゃ同じ匂いのする『ハンニバル』シリーズも!とついに敬遠していた領域に足を踏み入れた。
なななんですか!これは!ハンニバル・レクターファンの作った超ハイクオリティのファン・フィクションじゃないですか!こんな堪らんご馳走を見逃していたのかと歯軋りしながら10日間でシリーズ39話完走。
season1はレクターとグレアムの馴れ初め。
FBI特別捜査官のジャック・クロフォード(ローレンス・フィッシュバーン)から請われ、FBIアカデミーで犯罪心理学の講師をしていたウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)は連続少女失踪事件のプロファイリングを担当することになる。
現場に立ち犯人の心理に同調し犯人にたどり着くグレアム独特のやり方は、目覚ましい成果と共に彼を心理的混沌へと引きずり込む。
グレアムの不安定さを心配した友人の心理学者アラーナ・ブルーム(カロリン・ダヴァーナス)は、自分の恩師であり信頼を置くハンニバル・レクター博士(マッツ・ミケルセン)にそのカウンセリングを依頼する。
グレアムの特殊な才能に興味を抱いたレクター博士は的確にグレアムを導き、捜査にも手を貸してくれるようになる。
そしてグレアムはレクター博士に見出されてしまうのだ。
純粋な心の奥に隠された底なしの可能性を。
特殊な共感能力ゆえに人嫌いに近い状態にある彼に周到に近づいて安心させ、対等かそれ以上のレベルで犯罪心理の検証を討論するレクター。
グレアムとの距離を詰め絆を構築していく。
本作の下敷きになっているのは小説『レッド・ドラゴン』の登場人物。『羊たちの沈黙』以前の時間軸になり、シーズン3の後半にその小説部分にあたるエピソードが登場。
だが本来の主役グレアム以上に目立ちシーズン1の主役の座を欲しいままにしているのは、危険なシリアルキラー・レクター博士!
自信にあふれ周囲を魅了しまくる彼はいつも場を支配してしまう。紳士的で物腰柔らか、お金持ちで趣味が良く、頭脳明晰で学会での評判も上々。
彼に嫉妬している凡庸な俗物としてチルトン博士も登場しレクターを引き立てまくってる。
カウンセリングに通ううちに彼の大ファンになってしまった患者としてダン・フォグラーも出演。
異常犯罪の連続の中で周囲の人物は暗闇で手探りをしているように恐怖にこわばっているのに、レクター博士だけはすべてを見通していて優雅に歩き回っている。
恐ろしいサイコパスなのにカッコイイと思ってしまうのだ。
マッツの声もいい。
そしてレクター博士といえば人食いハンニバル!
レクター邸で食事がふるまわれるシーンの多いこと!
めちゃくちゃ残酷で芸術的な死体が発見されたと思ったら、博士がクラシック音楽にのって時に軽快に、時にしっとりと料理をするわするわ!
ウィルの自宅にまでタッパー片手に訪ねてくる始末。
彼が同居しているワンちゃんたちにも惜しみなくふるまう。
みんな知らないで食べちゃってるYO!ひぃぃぃぃ。
残さず美味しくいただくのは、尊いものに対して行う行為である、という猟奇殺人者がはじめに現れ、人間が人間を食べるのってなんで?という問いにひとつの答えが示される。
そんな入門編を足がかりにグレアムとドラマ視聴者たちは、レクターの築いた迷宮へと誘われていくのであった。
もう一方の主役グレアムを演じたヒュー・ダンシー、歴代グレアム(エドワード・ノートン、ウィリアム・ピーターセン)の中でも最高に好み。
繊細でちょっと少年ぽい容貌が本作のキャラクター造形にガチハマり。
レクターが彼を見込んじゃう説得力あり。
エレガントな装いのレクターとラフな服装のグレアムで一見対照的だが、その面差しは均整のとれた美意識で釣り合っている。ふたりともずっと見てたいわあ。
そんなグレアムは己の特殊能力(ギフト)によって蝕まれていく憐むべき聖者の趣がある。
彼は地獄で罪の在処を探索し続ける宿命を背負わされている。
業病を患い聖地を目指して旅をする巡礼のように、彼は寄るべなく危うい。
彼の膿んで見えぬ目の代わりに、手を引いて道案内をするのがレクター教授だ。
聖者を貶めるのは悪魔の性なのだろうが、レクター博士の場合、神に唾する行為が目的ではなく(どうも無神論者のような)自分の求める美しい世界を共有できる相手を望んでいるのかも。
社会的善悪を超越できるグレアムの共感能力ゆえに、彼はレクター教授にとって特別である。
グレアムはその共感能力のために常に恐れや苦痛と隣り合わせで居なければならず、その苦しみに耐え続けてきた。
レクターが彼に施した処方によって、瞬間そこから解放されるグレアム。
「こんなの初めて」みたいな事を言ってレクターを喜ばせるシーンは、小鳥や少女への支配的欲望をサラッと書いた澁澤龍彦が頭をよぎった。
こんな危ない2人のブロマンス。
私の中では大ヒットした『Sherlock』をも凌ぐ、近年稀に見る最高の味わい。
ついに敬遠していたトマス・ハリスの小説を読み始め『ハンニバル』の造詣を深めている。病膏肓に入る…