見出し画像

「全世界あての電報ー動物会議は、国家という考えをすてさることを、ケープタウン会議に要求!」

 タイトル写真は『動物会議 ケストナー少年文学全集8』エーリヒ・ケストナー作 高橋健二訳 ワルター・トリヤーさし絵 岩波書店と、『どうぶつ会議』エーリヒ・ケストナー文 ワルター・トリヤーえ 光吉夏弥 訳 岩波書店
タイトル文は『動物会議』、以下3枚の写真は『どうぶつ会議』から。

 立川のPLAY! MUSEUMで「どうぶつ会議展」が開催されている。この展覧会が始まった時、ロシアはまだウクライナに侵攻していなかった。ニュースでも、ウクライナの地下鉄でいつもと変わらず通勤する人たちの姿があった。展覧会に行く前に、家にある古い『動物会議』を読み返してみたら、今の状況にあまりにも重なっていて胃のあたりが重くなった。

画像1

 訳者の高橋健二の解説によると、ケストナーは自由主義者ということで作品がナチスから焚書の対象になったり、二度もゲシュタポに捕まって取り調べを受けたりしている。周囲から亡命を勧められても、ドイツにとどまりヒトラーとナチスが何をやっているのか見届けておく人間もいなくてはと、ギリギリまで脱出しなかったそうだ。

画像2

  人間が世界のあちこちで外相会議を87回繰り返しても交渉が決裂するのに、動物たちは一度の会議ですんなり全会一致で、子どもたちの未来のためというシンプルな目標を掲げて平和条約を締結する。条約の1「国境のくい、国境の見張りは、すべてとりのぞく。国境はもはや存在しない。」条約の2「軍隊、銃砲、爆弾はすべてなくす。戦争はもはやおこなわれない。条約の5「今後いちばんよい待遇を受ける役人は、教育者とする。子供をほんとの人間に教育する任務はいちばん高い、いちばん重い任務である。」…。

画像3

 時代的にジェンダーや人種についての表現にはんんん…?という部分もあるけれど、本はあらゆる種類の動物たちの描写が詳細で楽しく、夢と魔法の王国のキャラクターがハツカネズミの身内として出てくるまさかの場面もある。物語全体を貫いているのは人間の、大人の、政治家の、軍人の愚かさ。今、この本をプーチンとロシアの政権に贈りたい。

画像4

 展覧会は物語を再解釈して制作したアーティスト達の作品がメインで肩透かし。このタイトルを使うのなら、もっとケストナーとトリヤーについての展示を多くしてほしかった。トリヤーの絵、ほんとうにすごいのに…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?